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岩佐徹のOFF-MIKE

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実況、ドラマなど放送全般、映画、スポーツ全般、 旅、食、友 etc

Archives「スポーツ実況の約束ごと」

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「シェフチェンコ。切り返して、シュートーッ!」
恥ずかしいほど裏返った声で描写したあと、私は沈黙しました。
振り返ると、隣の早野さんも勘のいい方ですから心得たもので、しゃべり出す心配は
ありませんでした。
2003年5月13日、チャンピオンズ・リーグ準決勝第2戦、インテルを相手にミランが
先制した場面です。手元のモニターには、喜びに沸く数的には劣勢のミラニスタたち、
めずらしく顔面を紅潮させているアンチェロッティ監督、抱き合って喜び合うミランの
イレブン…頭に浮かぶフレーズを飲み込んでゴール・シーンのスローが出るまで31秒、
しゃべるのを我慢しました。ハハハ。
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9月25日。
全米オープン・テニス初日のナイト・セッションでは、第1試合のあとに、偉大な足跡を
残したピート・サンプラスの引退セレモニーが行われました。
舞台がととのったところで呼び出された彼がセンター・コートの入り口に姿を見せると、
2万人を超えるスタンドのファンが立ち上がって拍手を送り始めました。
このときも、出席者たちと挨拶を終えたサンプラスがこのスタンディング・オベーションに
思わず嗚咽し始めたところから司会者がセレモニーをスタートさせるまでの1分53秒間、
黙っていました。

しゃべりたいのを我慢して、画面に語らせる。すべての人に受け入れられるかどうかは
分かりませんが、これが私の好きなスタイルです。
「もう少ししゃべったほうがいい」と考える人の中には、試合のハイライトや年末の
総集編などを担当するディレクターもいます。
「チッ、これじゃ盛り上がんないジャン」(ハハハ)とか言ってるに違いないのですが、
私はそのとき、その瞬間を視聴者と共有することを優先するようにしています。

テレビ放送が始まって50年、「見れば分かることはしゃべるな」とよく言われます。
アナウンサーになりたてのころ、先輩から耳にタコができるほど教えられたものです。
しかし、基本的にはその通りですが、実際はそうも行かないのです。
一つ一つのプレー、技を描写しなくてもいいのは、フィギュアスケート、体操、ゴルフ、
テニス、相撲など限られた種目だと思います。
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まったく実況しないのではなく、「ここからが見せ場です」、「見事に決まりました!」、
「あざやかなパッシング・ショット」、「よく残しました」など、ここという場面では
視聴者の気持ちを惹きつけるために最小限の描写は入れます。
逆に、ボクシング、競馬などは、「見れば分かる」と分かったうえで、ほとんどすべての
動きを言葉で追っていきます。
視聴者が映像を見ながら実況によって気持ちを盛り上げることを知っているからでしょう。
面白いことに、アメリカでもこの両種目は日本と同じようにラジオ風の実況をしています。

残りの種目については、両者の中間、つまり、少し“抑え目”に実況をつけているのが
現状だろうと思います。たとえば、ラジオなら「センターサークルにはボールをはさんで
手前にロナウド、向こうにラウール、その向こうにレフェリーのコッリーナさんの顔が
見えています」としゃべるところをテレビは「顔がロナウド、背中はラウール。
レフェリーはコッリーナさんです」で終わりです。
「そのメンツなら名前もいらない」などとチャチャを入れないように。ハハハ。

このように、“どれぐらい実況するか”は、種目ごとにこれまでの放送の歴史の中で自然に
「落しどころ」が決まってきたのだと思います。あとは個人差でしょう。
ただし、その“個人差”はしゃべり手と受け手、それぞれにありますから微妙です。
わずかな差でも実況が多いと感じれば「いちいち言わなくても分かるよ、うるせえな」、
逆に情報が多すぎると思えば「どうでもいいことばっかりしゃべってないで、ちゃんと
実況しろよ」とお叱りを受けますからね。
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落しどころと似ているものに用語などについての「不文律」もあります。
たとえば、ゴルフでは、「1から10までは英語で、11以上は日本語で」という不思議な
現象が定着しています。つまり、「ワン・アンダー」、「ワン・ストローク」から「テン・
アンダー」、「テン・ストローク」まで英語のあと、いきなり「じゅういち・アンダー」、
「じゅういち・ストローク」になるのです。長年こう聞かされてきた大多数のゴルフ・
ファンには違和感がないでしょう。「慣れ」があるからです。

ところが、10年ほど前、NHKの中継であるアナウンサーが「イレブン・アンダー、
トゥエルブ・アンダー」と言い始めたときには「おやっ?」と思いました。
ディレクターと話し合った上でのトライだろうとは想像がつきました。
しかし、ラウンドが進んで「フィフティーン・アンダー、シックスティーン・アンダー」
あたりになるとやはり違和感を覚えるようになりました。

私の記憶では、この試みはその大会だけで終わり、元に戻ったと思います。
本来おかしな言い方に違和感がなく、正しい言い方のほうがおかしく感じる、それこそ
おかしな現象が起きたことになります。

テレビでラグビーを見ることが減ったので、「定着」しているかどうか分かりませんが、
ファウルがあってプレーが止められたときに「A大学にペナルティーがありました」と
実況するアナウンサーがNHKにもいて驚いたことがあります。
本来、まず「B大学にファウルがあって」その結果として「A大学にペナルティー・キック」
なんですが、ファウルとペナルティーがごっちゃになっているのです。

WOWOWでアイス・ホッケーを担当していたときにもまったく同じことが起きました。
しかも、専門家である解説者が疑問を感じていないので困ったことがあります。
何度か話をして、一度は「確かに言われてみればそうだね」と納得してもらったのですが、
とにかく、何十年もしみ込んでしまっているのですぐ元に戻ってしまい、最後には私が
ギブアップすることになりました。
このあたりのことは書き出すとキリがありません。長くなってしまいましたので、続きは
またの機会ということにしましょう。

10日にメディカル・チェック、11日にはぴあ主催のテニス・トーク・ショーをやって
12日にオーストラリアに向かいます。
では、今年もヨロシクお願いします。

*2004年1月、旧HPに書いた記事です。
“ファウル・ペナルティー”の件については、先日、学生ラグビーの準決勝、決勝を
見ましたが、NHK,の実況アナは今でも、同じ言い方をしているようです。
たぶん、私がこだわりすぎなんでしょうね。ハハハ。

あとで、落合の殿堂入りについて書く予定です。

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by toruiwa2010 | 2011-01-16 08:05 | 放送全般 | Comments(4)
Commented by kanada at 2011-01-16 14:05 x
おはようございます。今日は一段と寒いですね。
さて、私は岩佐さんの実況のスタイルがとても好きでした。今でも当時のVTRを見ると、その場の状況はしっかり浮かんでくるのに、過度な演出がなく本当に心地よく試合を堪能できます。場面によっては沈黙していることでこちらの感情が揺さぶられ、現地の雰囲気を共有しているような錯覚におちいることもしばしばでした。
また、サッカーでもテニスでもいいので岩佐さんの実況をお聞きしたいです!
Commented by toruiwa2010 at 2011-01-16 15:52
kanadaさん、こんにちは。

100%は不可能ですが、できるだけ、視聴者と呼吸を
合わせるようにと心がけました。
WOWOWだからできた部分もあります。

また、サッカーでもテニスでもいいので岩佐さんの実況を
お聞きしたいです!・・・もう無理です。ハハハ。
Commented by kyon at 2011-01-19 20:58 x
岩佐さん、こんにちは。いつも楽しく拝見させていただいております。
実況での「沈黙」について、観ている側の意見としても、まったく同じ気持ちでした。選手に対する観客の歓声や拍手、歌声など、ここは現地の「音」を感じたいと思う瞬間があります。そんな時、実況の方にしゃべられちゃうと、なんだかもう・・・。黙れ!って思いますね。
岩佐さんの実況、懐かしいです。
Commented by toruiwa2010 at 2011-01-19 21:07
kyonさん、こんばんは。
アナウンサーにとって“黙る”のは
かなり勇気がいるのです。
若い人ほど難しいと思います。
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