ブログトップ | ログイン

岩佐徹のOFF-MIKE

toruiwa.exblog.jp

実況、ドラマなど放送全般、映画、スポーツ全般、 旅、食、友 etc

「濡れ衣は可哀相…~「笑えてきたわ」事件の顛末~」11/03/23

d0164636_10143553.jpg
d0164636_10152714.jpg
昨日の朝日新聞

一昨日、フジテレビが遅ればせながら釈明して、一応の決着は見たようだが、なんとも、
後味の悪い“事件”だった。
軽挙妄動・付和雷同型の“人種”が少なからずたむろする2chやツイッター、youtubeでは
異常に広まった話だが、世間には知らない人も多いと思うので簡単に記す。

3月12日夜の菅総理の記者発表を中継したフジテレビの画面から“不要音”が流れた。
不要音とは、せき、くしゃみ、原稿をずらす音、膝が机の脚にぶつかって“ゴツン”など、
本来、放送に乗せてはいけない音を指している。
この“事件”の場合は男女の会話だった。きちんとした話し方ならともかく、いかにも
今どきの若者同士らしい、くだけた口調のものだったし、“仮にも”総理大臣の会見中
だったから、気付いた人の反応は大きかった。
d0164636_1016329.jpg
さらに、どんな意図があったか知らないが、何者かが、どこかに「女の声はAアナだ」と
断定的に書いたことで騒ぎはますます大きくなった。
読んだ人たちが本気で信じたかどうかは疑問だ。しかし、井戸端会議では近所の奥さんの
悪口が最高のテーマであるのと同じで、この手のエピソードは面白おかしく語られる。
この話もツイッター上でどんどん拡散されて行った。信じがたいスピードで。
結果として、「フジテレビの報道姿勢はひどい」「Aアナには今後ニュースを読ませるな」
という非難の声が盛大にあがった。つまり、“女の声=Aアナ”が確定してしまったのだ。

「なんだか、おかしいな」と思い、ツイッターでフォローの発言をしたが、ほとんど誰も
聞く耳を持ってくれなかった。
ブログに関連した記事を書いたが、その締めくくりはこうだった。

テレビは今や時代の最先端を行く。
そこで働く社員、特に若者に考え違いをする者がいても、私は驚かないが、
視聴者は「とんでもないこと」「信じられない」と思うだろう。当然だ。
フジだったことは否定できないようだ。OBとして恥ずかしい。失われた
信用・信頼を取り戻すには途方もない時間と努力が必要だ。

せめて、アナウンサーではなかったと思いたい。


…後輩たちを信じたい気持ちがある一方で、最近の傾向から“やりかねない”という思いも
捨てきれなかったのだ。

分からないのは、災害発生の際の政府を思わせるフジテレビの対応の遅さだ。
報道にしても編成にしても、2ch・ツイッターでの“騒動”を知らなかったとは言わせない。
初期の段階で、女の声=Aアナではないことも確認していたはずだ。(後述)
「不適切な音声が流れたことをお詫びします。なお、声はスタジオ外の中継ポイントにいた
取材スタッフのものです」と、すぐ、メディアに流せばよかったのに、と思う。

「Aには、会社が彼女を信じていることを伝えれば十分。この手合は無視するほうがいい。
釈明すれば、別のことで突っ込まれるだけ」という判断だったのだろうが、そのせいで、
一昨日まで、Aアナは一部で“犯人扱い”を受けたし、会社が何も言ってくれない間に、
台湾のテレビでも顔写真入りで伝えられるなど、大きなダメージを負ってしまった。

この種の“事件”を見逃すことは少ないのだが、この件はリアルタイムでは知らなかった。
ツイッター上で偶然見つけ、youtubeに残っていた1分20秒ほどのビデオで確認した。
文字に起こしてみると、こうなる。
d0164636_1017566.jpg
安藤「…会見の内容を皆様と一緒に聴いてまいりたいと思います」
*映像はすでに官邸に切り替わっていた。

*その後、4秒近い“素”(無音状態)がある。そこに男女の声が流れた。

男「ふざけんなよ。また原発の話なんだろ」
女「だから、こっから上げられる情報ないっつってんのに」

*この二言は、菅総理が話し始める2秒半ほど前までに終わった。

総理「地震が発生して1日半が経過をいたしました」
*この言葉に男の声で「ほんとに来るのかどうか…(以下、聴きとれず)」がかぶった。

総理「被災をされた皆さんに心からお見舞いを申し上げますとともに」
*女の声「ほんと、クソだよ」がかぶっていた。

総理「 救援・救出に当たって全力を挙げていただいている」
*ここに、女の「ああ、笑えてきた」という声がかぶっている。
業界的にいう“不要音”はこれが最後だった

…最初にこれを聴いたとき、何が起きているのかよく分からなかった。
一般の人は、マイクを切り忘れた…と思うだろうが、それは考えにくい。アナウンサーは
話し終えたら、無意識のうちに手元のスイッチでマイクをオフにするものだからだ。
出先からハンドマイクでリポートするときでも、スタジオに切り替わったら、マイクを
口元から遠ざける…私の場合は、必ずマイクを体の後ろに持って行くことにしていた。
その上で、自分のマイクが完全に“死んだ”ことを音声さんに確認すまでは余計なことを
言わないのがアナウンサーの習性だ。
d0164636_10172735.jpg
スタンドマイクやピンマイク以外に、エマージェンシー用の特殊なマイクがセットの上、
アナウンサーの前に置かれている場合がある。バウンダリーマイクが正式の呼び名だが、
形状から音声の技術者たちは“ゴキブリ”などと愛称で呼ぶことが多い。
しかし、そのマイクが拾った音でもなさそうだ。第一、切り忘れたメインのマイクや
ゴキブリが拾うとすれば、安藤の声のはずだが、音質が彼女の声とはまるで違う。

スタジオセットの全体像が分からないが、その時点の出演者以外に、離れたところにいた
スタンバイ中の人たちの声を、近くにあって、オフになっていないマイクが拾う可能性は
あるかもしれない。ここまでの推理の過程では、その場合、Aアナであるという可能性を
完全には捨てきれなかった。ただ、この場所にいそうな人たちは、仮に聞こえていないと
分かっていても、ここまで“くだけた”話し方はしないだろう…と思う。

2回目に聞きなおしたとき、「これは100%、Aアナではない」と確信する個所を見つけた。

出回っている動画には誰かの手で、発言の内容が文字として書き込まれているが、
素人には意味が分かりにくい一言だけが文字になっていない。
それが、“ホントに来るのかどうか…”の部分だ。
本社から中継ポイントに、次の番組の中でそちらから中継を入れてもらう…という指示を
出すとき「次、行くからね」と言い、中継側は周囲のスタッフに「次、“来る”ぞ」と言う。
つまり、男のスタッフは「本当に、ここから中継を入れろって言ってるのか?」と疑問に
思ったのだろう。聞きとれなかった部分は「…もう一度デスクに確認してみるよ」だった
のではないか。

どちらにしても、この会話は菅総理のメッセージとは全く無関係のものだと分かる。
そして、菅のメッセージを馬鹿にするようなものなら別だが、中身は“痴話げんか”の
ようなもので、ヒーロー・インタビューに混入したのだったら、まず、こんな騒ぎには
ならなかったはずだ。
発生場所も本社ではなく、いくつかの中継ポイントのどこかだということも分かる。
“愚痴っぽい”話の中身も現場に出ている記者・ディレクターたちがよく交わすものだし、
そのあとに出番を控えていたAアナがそこにいるはずは絶対にあり得ないのだ。

「いったい、どうなってんのかなあ、うちのデスクは!やってらんないっすよ」
本社と話していた顔なじみの記者が受話器を叩きつけると振り返ってぼやいた。
…野球取材中の記者席で何度、そんな経験をしたことだろう。
新聞であれテレビであれ、最前線で働く記者(ディレクター)と本社から注文を出すデスクは
永遠に相いれない仲だ。

いわば、どこの局でもこんな会話が交わされているし、いつ、どんなトラブルでそれが
電波に乗ってもおかしくはないのだ。
“今回は”フジテレビだったが、次はTBSかもしれないし、日テレかも、テレ朝かも…
NHKにだって起こる可能性は十分にある。人間が関わっている以上、“絶対”はない。

冒頭に掲げた朝日新聞の記事の最後はこうなっている。
「笑えてきた」などの発言は、スタッフが自分の担当の中継がなかなかつながらない
ことについて漏らした言葉だという。

もし、フジテレビがそう話したとすれば、おかしい。
“つながらないことへのぼやき”ではなく、新しい報告材料もないのに“無理に中継を
させられることへの不満”と考えるほうが、会話の流れから見ると自然だからだ。
ま、この際、そんなことはどうでもいい。

発生後数日間の被災地取材スタッフの言動に不適切な部分があったらしい。
数日後、現地に入った有名キャスターの言動・いで立ちも不評だった。
フジテレビの取材車が緊急車両専用の給油所で給油を強要したという、2ch発の情報が
“事実”として拡散した。
…うなずけるものもあり、苦笑するものもあるが、フジテレビに対するバッシングは
たしかにすさまじかった。
しかし、現象を冷静に見れば、いくらこの“流れ”の中で発生したとはいえ、今回の件が、
少なくとも“報道姿勢”とは無縁のものと分かるはずだ。

ただ、どう言い訳をしてみても、関係のない音声が出てしまったのはフジテレビのミスだ。
当日の音声スタッフは“チェック漏れ”を厳しく反省しなければいけないだろう。
対応が遅れ、長い間、放置したことも責められていい。
救いようがない“品のなさ”にはあきれるが、それも“報道姿勢”とは無関係だ。

一報道機関が罵詈雑言を浴びるだけならいい。
しかし、間違った情報が、重大さを理解しない人たちの手によってあっという間に広まり、
それが事実として定着してしまうIT社会には“怖さ”もある。
これが、国の存在や生命の危険に関わる情報だったら…と思うと、ぞっとするのだ。


理解していただけるように、できるだけ丁寧に書いたつもりですが、
当然、異論・反論があるだろうと思います。私に対する批判もあるでしょう。
きちんと整理されたコメントなら残しますが、感情的なものや、ほかの人の
コメントに対する批判は私の判断で削除しますのでご了承ください。

by toruiwa2010 | 2011-03-23 10:23 | 放送全般 | Comments(10)
Commented by プリゴロタ at 2011-03-23 13:39 x
こんにちは。2年ほど前に「shin」というHNで数回コメントさせていただいた者ですが、
似たようなHNの方がいらっしゃるので、HNを変更させていただきます。
(すみません、覚えていらっしゃらないでしょうし、そもそもどうでもいいことですね^^;)

本題ですが、岩佐さんが書かれた
>軽挙妄動・付和雷同型の“人種”が少なからずたむろする2chやツイッター、youtube
というくだりを強く支持します。
今回の件に関しても、初めて「事故」を知ったときは「不謹慎な発言だなぁ」と不愉快な気分になりましたが、
大した根拠もなくAアナが犯人であるかのような「風評」が広がっていたことにも疑問を感じていました。

(とは言え、フジテレビはもっと早い段階で釈明すべきではなかったかとも思っています。)

まあ、現実社会でも似たようなことは起こりますが、
ネットでは投稿者の「顔」が見えない分、こういった現象が「強く」「頻繁に」発現するのかもしれませんね。
(特に2chなどはいわゆる「コテハン」の方が蔑視されるようなサイトですし・・・)
自分もネットは頻繁に利用していますが、
そこに書かれた情報への「更なる慎重さ」を求められているような気がしました。
Commented by toruiwa2010 at 2011-03-23 16:07
プリゴロタ さん、こんにちは。

覚えてますよ。どんなコメントだったかはともかく。
ツイッターは効用ばかりが言われますが、危険な要素も
たくさんありますね。
Commented by seiya at 2011-03-23 18:41 x
岩佐さん、こんにちは!

「来る」という言葉にはそんな意味があったのですね!
また、マイクの仕組み、アナウンサーの習性、デスクと記者の関係…一般の人には全く知らないことばかりでした。
現場に携わった人しか上記のようなことはわからず、想像や妬み、おもしろがる気持ちなどが絡んで話が広まっていったのだと思いました。
一つの物事には冷静に色んな角度から見なければならないと思いました。

また、話終わったあとのアナウンサーの習性、岩佐さんの「マイクを体の後ろに隠す」という姿勢に感銘を受けました。
どんな仕事についてもそのような誇りと気遣いとプロ意識を持って働きたいと思いました!
Commented by toruiwa2010 at 2011-03-23 19:32
seiya くん、こんばんは。

どんな世界にも、そこでしか通じない言葉があり、
いろいろな工夫があります。
先輩から学ぶこともあるし、自分で編み出すことも。
Commented by skylafe at 2011-03-23 19:33 x
さすが!岩佐さん。
現場経験者でしか出来ない、臨場感溢れる分析で、敬服です!

そうだったんですね~
フジテレビも、ぼやかさないできちんと説明&謝罪すれば、そうだったのね~位で終わったものを…(苦笑)

情報隠しは枝野さん達だけでたくさん! ですね!
Commented by toruiwa2010 at 2011-03-23 20:56
skylafe さん、こんばんは。

ある意味、OBとして、罪のない後輩をかばうのは
役割の一つだと思います。
一人でも多くの人の誤解が解ければいいと思ってます。
Commented by shin555 at 2011-03-23 22:24 x
論理的な説明で十分納得できました。
やはりフジテレビははっきり説明すべきです。中途半端な対応では濡れ衣を着せられた人が可哀相ですね。
Aアナ、応援したくなっちゃいます(^-^)
岩佐さんの後輩を思う気持ちも伝わってきます♪
Commented by toruiwa2010 at 2011-03-23 22:32
shin555さん、こんばんは。

理解してくれるのはおなじみさんが多いですね。w

Aアナは始まったことに比べると相当うまくなったと
思います。頑張り屋さんなんでしょう。
Commented by ワタカ at 2011-04-13 22:36 x
はじめまして。
ちょっと質問です。
出番を控えているアナウンサーは、その間、何をしているのですか?

何か情報をチェックしたりするのですか?
それとも、ただ休んでいるだけですか?
Commented by toruiwa2010 at 2011-04-14 08:09
ワタカさん、おはようございます。

一言で出番待ちと言ってもいろいろです。
ただ、休んでる人もいます。ハハハ。
1時間、30分も前から同じスタジオの中
にいることは、普通ありません。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。