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岩佐徹のOFF-MIKE

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「渇望 ウインブルドン実況~やり残したグランド・スラム~」 11/06/22

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「やり残したことはないのか?」
「はい、ありません」

…フジテレビでアナウンサーを辞めるとき、総務局長と交わした会話です。
もちろん、やりたいことはたくさんありました。しかし、辞めたいと思っているときに、
「いえ、実はいろいろありまして…」と言えば、「それなら、辞めるなんて言うな」と
説得されるに決まっていますから、言わなかっただけです。ハハハ。

「思い残すことはない」と言いきれる人生なんてごくごくまれな人しか送れないでしょう。
私のような“煩悩”が多い人間にはとても望めません。
テニス・アナとして“やり残した”ことの一つは、グランド・スラム達成です。
1992年に初めて3大会の実況をしました。全米が終わったとき、アナウンサーとしての
“グランド・スラマー”になりたいものだと思いました。
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それには、ウインブルドンの実況をしなければいけません。しかし、“高い壁”でした。
放映権は長くNHKが持っていて、手放す気配はありません。オール・イングランド側も
“国営”放送・NHKのステータスがお気に入りだったようです。一度、プレゼンにまで
こぎつけたことがありますが、放映権料アップの“ダシ”に使われた感じでした。ハハハ。

WOWOWが「伝説は甦る」というシリーズを企画し、歴史に残る名勝負を放送したとき、
テニスを2本頼まれました。どちらもウインブルドンの決勝です。
1本は1980年のボルグvsマッケンロー、もう1本は1982年のコナーズvsマッケンロー。
解説をつけない“一人喋り”でした。資料はほとんどありません。
苦肉の策で、現地の実況を懸命に聴き、話の断片から情報らしきものを引き出しました。
苦しいけど楽しい作業でした。

しかし、私の夢はセンターコートを見下ろす放送席に座っての実況です。
果たせないまま、現役を終えることになりました。“やり残した”のです。

一ファンとして、今もときどき思い出す試合は男女1試合ずつあります。

1992 Wimbledon Gentlemen’s Singles Final
Andre Agassi d.Goran Ivanisevic 67/64/64/16/64


男子では1992年のアガシvsイバニセビッチです。
第12シードだったアガシは、QFでフルセットの末ベッカーを、SFではマッケンローを
ストレートで下して決勝に進出しました。
一方、第8シードのイバニセビッチは4回戦でレンドル、QFで第2シードのエドバーグ、
SFではサンプラスに勝っていました。

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強力サーブが売り物のレフティ、イバニセビッチと“史上最高のリターナー”と呼ばれた
アガシの対戦はプレースタイルも対照的でしたから、テニス・ファンの関心はきわめて
高いものがありました。
コートに登場した2人は、もちろん、ウインブルドンの“ドレス・コード”に従って
上下とも白一色、アガシは白いキャップをかぶっていました。
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アガシがシャツを着替えるたび女性客の嬌声が…

アガシは1987年に一度出た(1回戦敗退)あと、ウインブルドンを“敬遠”していました。
まさか、“コートの上を舞う蝶さえ白い”とからかわれるウインブルドンでは、白以外の
ウエアを認めないというドレス・コードに腹を立てたわけではないでしょう。ハハハ。
当時はサーブ&ボレヤーに圧倒的に有利と言われていたことが大きな理由だと思います。
性格的にも、勝ち目のない勝負はしないのでしょう。
しかし、前年、1991年、久しぶりに出場してQFまで進んでいます。


世界中のテニス・ファンの熱い期待にこたえて、22歳のアガシと20歳のイバニセビッチ…
2人の若者の対決は見ごたえがあるものになりました。
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当時のコーチ ニック・ボロッテリ(左)とGF ウエンディ・スチュアート

サーブからネットへの流れで主導権を握ろうとするイバニセビッチに対して、アガシは
得意のリターンから厳しい攻めで対抗しました。特に、高くキックする彼のセカンド・
サーブがかなり効果的だったと思います。
50分かかった第1セットをタイブレークの末に取ったイバニセビッチが優位に立ったかに
見えましたが、第2セット第1ゲームをブレークしたアガシは、勢いに乗って2セットを
連取し、形勢を逆転します。

いつものイバニセビッチなら精神的に崩れる展開でしたが、この日の彼は違いました。
何に対しても決して腹を立てまい…と誓ったかのように、冷静さを保っていました。
ただし、途中でこんな場面がありました。
第4セット第1ゲームが終わってインタバルに入ったところで主審がイバニセビッチに
話し始めると、アシスタント・レフェリーも加わってなにかを説明をしています。
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実は、試合中のどこかでフラストレーションを解放するために彼が発したexpletive…
(悪態)をBBCのマイクが拾い、全世界に流れました。
彼の国籍は複雑な民族・宗教の問題を抱えるユーゴから独立したばかりのクロアチアです。
公用語はクロアチア語ですが、ほかの、例えばセルビア語などともよく似ているようです。

審判席に着くとき、主審はある“メモ”をポケットに忍ばせていると言われています。
主だった国の言語で“悪い言葉”“放送禁止用語”が書かれているそうです。たとえば、
英語ならf**kほか実に多数…。ハハハ。
しかし、この試合の主審が持っていたメモにクロアチア語はなかったのでしょう。
ですから、警告は出ませんでした。

しかし、天網恢恢…世界のどこかで聴いていた、イバニセビッチの言葉を理解する人が
オール・イングランド・クラブに国際電話をかけてきたのです!
クロアチア人は国を挙げて応援していたはずですから、分離・独立に至る過程で摩擦が
あった“旧ユーゴ”のどこかから…でしょう。ハハハ。

動揺はあったはずですが、持ちこたえたイバニセビッチが第4セットを取り返してついに
2セット・オール、勝敗の決着はファイナル・セットに持ち越されます。
グランド・スラムの決勝は常にこうありたいですね。ハハハ。
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試合は、アガシがイバニセビッチを振り切ってウインブルドン初優勝を果たしました。
勝利の瞬間、ガールフレンドやコーチがいる陣営を振り返って信じられないという表情を
見せたアガシは両手で顔を覆い、そのまま、芝の上にうつ伏せになりました。
当時のアガシは、アメリカ国内で“Image is everything”(イメージがすべてさ)をキャッチ
フレーズとするキャノンのCMキャラクターに起用されていました。
口の悪い人たちからは「あれは、CMで効果的に使えるように演技をしたに違いない」と
揶揄する声が上がっていました。まさかね。ハハハ。
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ちなみに、アガシのロン毛は2年後の1994年で終わりました。
1995年の全豪に出場するためメルボルンにやってきたアガシは坊主頭だったのです!
ずっと、新年早々、南半球まで出かけることを拒んでいたアガシを「なに言ってるんだ。
君が一番やりやすいサーフェスなんだから」と説得したのはクーリエやサンプラスでした。


1993 Wimbledon Ladies Singles Final
Stefi Graf d.Jana Novotna 76/16/64


女子では、1993年のグラフvsノボトナが勝負の怖さとともに記憶に残っています。
4月にアーカイブで再録したばかりですから、簡単に記すことにします。

1セット・オールからの第3セット・第5ゲームでグラフのサーブをブレークしたとき、
ノボトナは67/61/41 とすっかり流れをつかんでいました。いたはずです。ハハハ。
もちろん、スタンドの空気もテレビの前の我々も、ノボトナが勝つのだと思っていました。
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ダブルフォルトでサーブを落として呆然とするグラフと勝利を確信した?ノボトナ

…しかし、それからおよそ25分後、ヴィーナス・ローズウォーター・ディッシュ(女子優勝
トロフィー)を手に静かに微笑んでいたのはシュテフィ・グラフでした!!!
ケント公夫人の肩に顔を埋めてむせび泣いていた敗者・ノボトナの姿をテニス・ファンが
忘れることはないでしょう。
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持っているDVDは、ともにBBCの実況を同録したものです。
誰が、日本人の実況なんか! 悔しいじゃないですか。ハハハ。

うーん、それにしても、やりたかったなあ、ウインブルドンの実況…。
あとからテニスの実況を始めた若いアナが、私の生涯の願望を何の苦もなく達成するのを
目にするのは精神衛生上、とてもよくないことです。ハハハ。

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by toruiwa2010 | 2011-06-22 10:02 | テニス | Comments(14)
Commented by いちごや at 2011-06-22 11:32 x
岩佐さん 初めまして♪
いつもブログを楽しみに拝見しています。
今日、勇気を出して、こうやってコメントの書き込みをしています。

記事にされている、グラフとノボトナの対戦をたまたま見て(もちろんテレビで)グラフのファンになり、以来4大大会は欠かさずテレビ観戦していました。
そして、何といっても岩佐さんの実況がとても好きでした。
落ち着きのある語り調と声のトーン、深夜放送が相成って、そのまま心地良い眠りにつくこともしばしば。。。(グラフの試合はどれも録画していたので後で何度も見ました)
グラフが引退してからは、何となく遠ざかってしまい、WOWOWの契約もやめ、今では試合を見る事もなくなりました。

数年前、岩佐さんのブログを知り、とても親しみを感じて(勝手に)いつか、コメントを残そう!と思っていました。
長くなってすみません。
とりとめなく綴ってしまいました。

これからも毎日ブログを拝見させて頂きます♪

暑くなりますので、どうぞお体の方、ご自愛下さいませ。
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 12:08
いちごやサン、こんにちは。

私も当時からグラフ・ファンでしたから逆転ドラマには
興奮しました。その前は落ち込んでましたが。ハハハ。

今後もよろしくお願いします。
Commented by なな at 2011-06-22 14:05 x
岩佐さん、こんにちは。
先日第3コートのこけら落としでケント公が映ったときに、まさに我が家で話題に上ったのがこの93年の女子決勝でした。
この記事を読んで改めて懐かしく思い出します。
岩佐さんのグランドスラム、古参のテニスファンとしても是非実現して欲しかったですね。
未だに「ナダルのウィンブルドン初優勝時の実況が岩佐さんだったらなぁ…」としつこく思い続けているものですから。
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 14:29
ななサン、こんにちは。

ナダルのウインブルドン初優勝…
しびれましたね。確かにしゃべりたくなる
試合でした。ナダル寄りにならないように
するのに苦労したことでしょう。ハハハ。
Commented by ヤップンヤン at 2011-06-22 14:38 x
グラフを初めて見たのは87年のウィンブルドンで、今年のジョコビッチのように連勝街道まっただ中で、ナブラチロワに決勝で負けた時のグラフの表情は忘れられません。まあ、翌年はもう誰の手にも負えない強さになってましたけど。

岩佐さんからみて福士烈などのNHKの解説陣は組みやすいのですか?
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 14:47
ヤップンヤンさん、こんにちは。

福井烈サンはよく知っています。仲良し…
のつもりです。ハハハ。
WOWOWは何度もアプローチしましたが、
NHKへの義理を大切にしたいと言って
とうとう、うんと言ってくれませんでした。
一度、コンビを組んで実況したかったですね。
Commented by ふぇでらーが好きなふぇでらー at 2011-06-22 15:28 x
こんいちわ、岩佐さん。

4大大会で一番好きなのがウインブルドンです。

NHKのアナウンサーはもしかしてオリンピックの体操で「伸身の・・・」を発した方だと思いますが、イバニセビッチがやっと優勝したのは何年でしたっけ・・・やっと決勝戦に勝利した瞬間に「頂点!」って発していました。まさしくそんな景色でしたが、ネタ帳を隠し持っているのだろう。前日から「最後の場面で・・・」と練習もしたのだろうと勝手に想像しました。

やっと優勝と言えば、ノボトナもなかなか優勝させてもらえませんでしたね。あの優勝は98年でした。勝気に見えて実はもろい・・・そんな所が大好きでした。いつも深夜に大声援を送っていましたが、グラフやヒンギスにいつも一歩およばなかったけど。

ベッカーが腕を壊した瞬間、伊達とグラフの2日に及ぶ熱戦等、思い返すと沢山の名勝負を思い出します。

うーん、見る側としても、「岩佐さんの実況」が聞けなかった事は残念です。
Commented by えそらいろ at 2011-06-22 16:38 x
岩佐さんがWOWOWを辞められた後、
NHKでウィンブルドンの実況をしてくれないかなと勝手なことを思ったものです。
柳さんとの”黄金コンビ”が実は苦手だった私ですが(少数派でしょうが)、
福井烈さんとのコンビはぜひ聞いてみたかったです。
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 18:34
ふぇでらーサン、こんばんは。

「頂点!」と一言なら、たぶん前から決めていたのでしょう。
「ノボトナが初めて頂点に立ちました」ならアドリブかも。
言葉を用意することが好きなようですから、前者でしょうね。
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 18:36
えそらいろさん、こんばんは。
アナウンサーはいろいろな人と組んで
やってみたいと考えるものなんです。
福井さんとはぜひ組みたかったですね。
Commented by tom☆ at 2011-06-22 20:51 x
何度「遅いのや!」と言われても懲りずに言えば~☆柳さんが続けてるのにどうして引退しちゃうかな~??・・・でした★
まっ解説者はお気楽ですね★
初めはしゃべり過ぎるアナに引いてたようなのに、今では見事に馴染んでらっしゃる。。お相手は誰でも関係無い??~★
★どっちが解説なんだか?ってゆーより解説し合いってな体たらく・・・岩佐さんに文句も言いたくなるってもんです!!★
それもこれも☆ウィンブルドンを岩佐アナで!!ってゆー【叶わなかった想い】の大きさの所為でしょう!!
イイカゲンこれを最後にしよう!と思いつつ、何度もごめんなさい<(_ _)>~☆
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-22 22:05
tom☆さん、こんばんは。

そこまでいっていただくのは有難いことです。
柳さんは元気です。もっと、アナウンサーがうまく
“コントロールすれば”いいんですけどね。
Commented by kanada at 2011-06-23 02:13 x
岩佐さんこんばんは。
こんな時間に起きているということは…伊達対ヴィーナスの試合を見ているということです(笑)不覚にも結果を先に知ってしまったのでドキドキ感半減は否めませんが、純粋に試合を楽しんでいます。同世代として彼女の活躍はうれしいものです!
Commented by toruiwa2010 at 2011-06-23 06:53
kanadaサン、おはようございます。

昨日の伊達は立派でしたね。
“立派”だけでは意味がないのがつらいところですが。
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