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岩佐徹のOFF-MIKE

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“ダメ”だと思う実況例9~岩佐徹的アナウンス論 13~12/02/12

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・・・つづき

謙虚でありたい


“さりげなく”の裏側には、“知ったかぶり”を排除したい気持ちもあります。
私自身、若いころにバスケットや草野球をやった程度のスポーツ経験しかありません。
情けない話ですが、サッカーのボールを蹴ったこともなければ、硬式テニスのボールで
プレーをしたこともないのです。どう蹴ればどう曲がるのか、ラケットを握った手首に
どんな衝撃があるのか 知らないまま実況していたのです。

自分がしゃべる競技について どんなにたくさん勉強し あるいはどれほど一生懸命見ても、
うわべのことしか分かりません。少なくとも、世界レベルの監督や選手の考え方や戦術・
技術を理解することは不可能だと思います。あえて言えば 解説者でさえ、現在放送席に
座る人たちの中で 肌で世界レベルの“実際”を知っている人はサッカーの奥寺康彦さん、
ゴルフの青木功さんぐらいしかいないのです。
ただし、そうは言っても その競技の知識も情報も豊かな専門家ですから、彼らが話したり、
彼らから話を引き出したりするのはいいとしても、アナウンサーが“分かったつもり”で
批判するのは考えものです。
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「それでは“批判精神”まで放棄することになる」と、言われそうです。
確かにそうかもしれません。しかし、「世界レベルのことでも、勉強すれば分かるさ」と
考えるほうが“傲慢”だし、アナウンサーが「分かる」と思いこんだとき、その実況は
“独善的”なものになる危険があると思えてならないのです。
私個人は、現役時代に取材を受けたとき「サッカーはあまりよく分からないんです」と
正直に答えていました。ある種の“自戒”です。

一方、サッカーほど“分かったつもり”になってしまう怖いスポーツはほかにありません。
ゲームがとても単純で、ルールも17 条しかないせいでしょうが、若いアナウンサーたちが
なぜあれほど自信満々で技術や戦術について語れるのか不思議で仕方がありません。
勇気があるなあと、ほとほと“寒心”します。ハハハ。

一般のサッカーファンも“半端ではない”知識を身につけています。ビッグ・マッチの
翌日、ネットをのぞくと、自分が納得しない解説、作戦、プレーには強烈なブーイングが
浴びせられています。中には「この解説者(監督)はサッカーを知らない」と言い切る人も
大勢いて、「君たちなあ・・・」と思わず声をかけたくなることがあります。ほかの種目では、
あまり見られない現象です。

そして、サッカーほど、出番が回ってきたアナウンサーに、「サッカーを知っていることを
分からせよう」、「大向こうをうならせてやろう」と高揚させる種目もありません。
私は、一つ一つのプレーの意図や意味がよくつかめないことが多かったです。分かれば、
そこから話を展開できるのに、分からないために、解説者に意図・意味を聞くことから
始めなくてはいけない“もどかしさ”を感じました。
ただし、少し強引かもしれませんが、知ったかぶったり、“分かったつもり”になるよりは
「自分は分かってない」と自覚しているほうが、“ケガ”は少なくてすむと思っています。

私の場合はもう一つ問題がありました。
この年齢になると、どの種目でも解説者ははるかに年下の人が多くなります。そのため、
中には私が間違ったことを言っても、遠慮して聞き流したり、話を合わせてくれたりする
人もいますから、余計に気を使わないといけないのです。
アナウンサーがおかしなことを言ったときに、民放なら即座に否定したり訂正したりする
解説者が、NHKではなぜか沈黙を守るのとよく似てます。似てないか。ハハハ。
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知識があればあるほど自分でしゃべりたくなるし、無意識のうちに、“教えてあげる”的な
放送になったりするものです。解説者と戦術や技術について会話することで 自分だけが、
「盛り上がったなあ。レベルの高い放送ができたぞ」と錯覚してしまいがちなところが、
この仕事の難しいところです。
たくさんの資料を読んで仕込んだ技術論・戦術論を振り回したうわべだけの実況を、私は
“頭でっかちな放送”と名づけました。ハハハ。
よく勉強しているとは思いますが、やりたいとは思いませんでした。
多くの視聴者はそんな放送を望んでいないと信じるからです。

また、「俺は ちょっとばかり知ってるんだ」と思っている(思い込んでいる)アナの場合、
解説者の話への相槌も気になるときがあります。「ほうほう」は論外、「はいはいはい」も。
さらに、プレーに対するリアクションのときに、しゃべりの中に「サッカーにはずいぶん
くわしいし、長く見てますが、こんなのは珍しいです」というニュアンス、色、雰囲気を
漂わすことがあって、私はこれも大嫌いです。

…この項目が長くなったのは この“さりげなく”こそが、私が実況に臨むときの基本で、
かなりこだわっているからです。人気アナになるためにはほかの要素も必要でしょうが、
少なくとも、広く視聴者に受け入れられるためにはとても大事なことだと思います。
スポーツ実況は、視聴者が「邪魔にならない」、「うるさくない」、「くどくない」と思えば
ぎりぎり合格だし、「聞きやすい」、「楽しめる」なら立派な合格です。
そういう放送を目指すなら“さりげなさ”は心がけたいポイントでしょう。
by toruiwa2010 | 2012-02-12 08:19 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(14)
Commented by ひろはっぴ at 2012-02-12 09:57 x
さりげなさの反対語は「あざとさ」でよろしいのでしょうか?さりげなさは、狙ってするものではないように思います。あざといのは確信犯そのものですが。何やら接客の場面にも通じる話ですね。さりげない気遣いといっても、お客様一人一人に合った気遣いは千差万別。日々難しさを感じます。

もう一つ、女性に対するさりげなさとあざとさ。これは世の男性が頭を悩ませている大問題ですね。
Commented by toruiwa2010 at 2012-02-12 10:03
ひろはっぴサン、おはようございます。

国語学的にはどうか知りませんが、
「さりげなさ」の対極にあるのは間違いなく
「あざとさ」、でしょうね。
Commented by Vevey at 2012-02-12 10:25 x
岩佐さん、おはようございます。
岩佐さんの実況の美学、共感する所が多いです。ただ私のようにスポーツ観戦は大好きだけど、実際にプレーしたことのない競技が多い場合、実況や解説に助けられてプレーの意味、技術の高さや選手のすばらしさを理解することができることもあるのです。
だから、そのさじ加減というのが微妙かも知れないと感じます。
おしゃれ過ぎると初心者にはわかりにくい可能性もあります。サッカーをよく知る主人には当たり前のことを言っていると思える事も、私はそうなのか!と納得していたりするのです。
M山さんの全てが良かったかは疑問もありますが(実際酷いな〜と思った事あり)その試合の生の状況に集中する事を貫いた事は良かったんでしょうね。

やはり決め手は岩佐さんのおっしゃる「謙虚」さに尽きるのではないでしょうか?視聴者と一体となって素晴らしい試合を堪能できる、オールハッピーな経験を味わいたいものです。


Commented by toruiwa2010 at 2012-02-12 11:41
Veveyさん、こんにちは。

「ほどほど」がなかなか難しいのですがね。
そして、オールハッピーはもっと難しいです。ハハハ。
Commented by 赤ぽん at 2012-02-12 13:46 x
岩佐さん、こんにちは。

視聴者との「シンクロ」、「予め用意された」言葉たち・・・
自分は分かっていないとの自覚・・・
そして、サッカーほど”わかったつもり”になるスポーツ・・・
岩佐的アナウンス論、毎回「なるほど・・・」と思いながら読んでおります。
今回も大変興味深く読ませていただきました。

私は小学校から大学までのサッカー経験者ですが、わかった‘つもり‘に
なっていたことが多々あったことを、友人の元J選手から聞いて知りました。
しったかぶっていたら・・・と思うと、とても恐ろしくなりました。
まして放送でアナウンサーが知ったぶったりしていたら・・・コワいですよねぇ!
もっともコワいとか恥ずかしいとかの感覚が無いように聞こえるアナが多いようにも・・・w

Commented by toruiwa2010 at 2012-02-12 13:49
赤ぽんサン、こんにちは。

アナウンサーは私を含めて「思い込み」が多い
業種かもしれませんね。ハハハ。
すみません、今日も変なのに絡まれてて。
Commented by 赤ぽん at 2012-02-12 14:23 x
とんでもありませんw
しかし、”つぶやき”のほうではお疲れ様です、そして、大変ですねぇ。
慣れっこの上の域に達してらっしゃるとは思いますがw

なんとか錦織が持ち直してきましたが、さて日本はどうなるでしょうか?!
Commented by td at 2012-02-13 13:23 x
実に興味深い記事でした。実況者としては一定以上の知識を頭に入れておかないと駄目だけど、かといってその知識をひけらかす様な頭でっかちの実況も出来ない。解説者と視聴者を繋ぐ繋ぎ手と言ったポジションでしょうか。難しいですね。長くやってると自分の中でのスポーツ論も固まってきてしまいますし、ご苦労されたかと思います。こういう裏話非常に面白い!
Commented by toruiwa2010 at 2012-02-13 19:28
tdさん、こんばんは。

映画を見に行っていたので遅くなりました。

「バランス」と自分の立ち位置を確認することが
肝心だと思っています。
Commented by inamine at 2012-02-14 12:03 x
こんにちは、
バランスが非常に難しいですね。サッカーはルールなどが割とシンプルで視聴者も情報をよく理解されてるスポーツですが、これが”マイナーな”スポーツになると状況もだいぶ変わると思います。「ペイTV」の視聴者は知的好奇心と言うか”能動的”な方が多いので、アナにある程度の知識があって、解説者とそこそこ渡り合わないと視聴者を満足させられないケースが多いように見受けられます。CSでのF1の生中継などがそれに当たると思います。
また、視聴者の大多数が「付け焼刃」の知識なのか「経験に裏打ちされた」情報なのかをしっかりとかぎ分けているとも思います。アナによる情報の「押し売り」はやりすぎとしても、アナの質問調なコメントが多くなるバランスの取れないいわゆる「馬鹿と利口」パターン(言い方は悪いですが)も避けたいところです。話が膨らまずにさらなる興味を掘り起こせない時があるからです。こればかりは解説者の”しゃべりのうまさ”にもよりますよね。個人的には視聴者のみなさんに「少し背伸びをさせる」くらいが良いのではないかと思っているのですが、結局はアナと解説者のしゃべりの相性、かみ合い具合に大きく左右されますね。
Commented by toruiwa2010 at 2012-02-14 12:13
inamineさん、こんにちは。

メディアによって、立ち位置が変わるのは
当然のことです。

CSはむしろ、その道のプロが二人で
しゃべるのがいいんじゃないかと。
たとえばF1でレーサーやピットクルー並みの
知識を持ったアナなど考えられませんから。
Commented by inamine at 2012-02-14 12:54 x
岩佐さま、こんにちは。
メディアによっての使い分けもあるのですが、CSにかかわらず「ルールや情報の認知(周知?)」度によっても変える必要があると考えています。なので自分の担当番組ではCSでもNHK-BSでも「視聴者にあえてすこし背伸びをさせる」ような方向性を担当アナにお願いしています。私の担当ではありませんが、先日のスーパーボウルの中継のように日本では情報が少ないNFLではアナによる積極的な情報の提供も必要なのではないかと考えるのです。
あと、”アナウンサーのデパート”状態となる五輪中継では、普段見慣れないスポーツ中継が多いだけに「不慣れな解説者」をフォローできる技量がアナにも必要だと思うケースも散見されます。「前もって準備した」原稿やコメントのアナウンスには白けますが、中継を重ねるにつれ”成長”してゆくアナウンサーの口から出てくる情報は視聴者にも有益なのではと思うことがあります。野球、サッカー、テニスなどでは視聴者が知識的(情報的)にかなり成熟しているのでいろいろと障害が出るのかもしれませんが、マイナースポーツの中継を多く担当すると実況アナからの発言(フリ)に助けられるケースは意外と多いと実感します。
Commented by toruiwa2010 at 2012-02-14 14:14
inamineさん、「視聴者にあえてすこし背伸びをさせる」ような
方向性・・・の意味がよく分かりませんが、そのために
アナウンサーも“背伸び”することになるなら得策とは思えません。
視聴者のためにもなりませんから。
Commented by ianamine at 2012-02-14 14:36 x
岩佐さま、
「視聴者のみなさんの知的好奇心をより増やす(満たす)」ような方向性」と言い換えます・・・・。難しいですね。
「知識」と「情報」の線引きは難しいですが、取材で得た情報を積極的にアナウンスするのは全く問題ないところだと思います。また、勉強で得た知識(うんちく?)も情報としては有用だと思うのです。たとえ”頭でっかち”だとしてもです。五輪中継を見てるとそう思う時が多々あります。「体育理論」や「運動理論」「精神論」まで語るのはやりすぎだとは思いますが、視聴者をリードする(情報を提供する)ための”背伸び”はいいのではないかと思います。それが”スポーツをより面白く見るためのヒント”でればです。結果的にはそれが耳障りになってしまうかどうかは状況(言い方?)次第だと思うのですが。
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