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岩佐徹のOFF-MIKE

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言い損なった一言1~岩佐徹的アナウンス論 22~12/03/17

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アナウンサーの仕事はつくづく厄介だなあと思うことがあります。
経験が浅いうちは、チャンとしゃべれるかと心配するものですが、慣れてくると、逆に
しゃべりすぎるようになります。はじめはおそるおそる、やがて過剰になって行く…
女性の化粧と似ているかもしれません。似てないか?ハハハ。
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余計な言葉で飾ったり、不要の情報を押しつけたり、黙った方が効果的なのに大きな声で
叫び続けたりするのは、しゃべることが仕事だと思っているからです。
言うまでもなく、饒舌ならいいわけではありません。必要なことを必要最小限の言葉で
的確に伝えるのがベストです。しゃべりすぎもダメなら、言葉足らずもダメです。
言うのは簡単ですが、実行するとなれば、結構 難しいです。

長くこの仕事をしていると、言いそこなった一言を悔むことがあります。
「あの場面でこう言えばよかった」、「どうして、あの一言が出なかったのかなあ」と。
スポーツ実況は95%がアドリブですから、多少の事なら「まあ、仕方ないよ」と自分を
慰めることですませてしまうのです。ビデオを見たりすると、「これぐらいの言葉は、
自然に出てくるはずじゃないか」と、後々まで自分を責めたくなるケースもあるのです。

1981年、フジテレビ時代のバレーボール・ワールドカップでのことです。
日本チームは、男女とも苦戦していました。そんな中で担当した女子の日本vsキューバに
途中出場した杉山加代子という若い選手が予想を上回る活躍を見せて、強豪キューバに
逆転勝ちしました。バレーボールではよくあることです。
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その試合が終わったときに、なぜ、「日本女子に新しいヒロインが誕生しました」の一言が
出なかったのかと、今でも思います。目新しい言葉ではありません。どちらかと言えば
手垢のついたフレーズですから「そんなのどうでもいいじゃないか」と思うでしょうが、
ワールド・カップはフジが力を入れていたイベントです。盛り上げるには日本の活躍が
不可欠でした。そこに“おあつらえ向き”のヒロインがすい星のように現れたのですから、
スポーツアナ暦14年なら、これくらいのことを言ってもいいだろうと悔やまれるのです。

逆に 77年大会の日本vs中国で 可憐な容姿で人気者だった中国のヤンシーという選手を
「山口百恵に似ている」と話したところ、この一言が一人歩きをはじめて、週刊誌にも
「中国の百恵ちゃん」と紹介され、私が、その名付親にされてしまったことがありました。
しかし、そんなことでは決して“チャラ”にはならないのです。ハハハ。
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ユーロ96決勝の時には、もっと口惜しい思いをしました。
ドイツと伏兵・チェコの対戦でした。グループ・リーグ戦からの勢いに乗って決勝進出を
果たしたチェコが、PKで先に点を取りました。
その後もチェコが優勢に試合を進めて迎えた後半27分、ドイツが長身のFWビアホフを
投入した直後にピッチ右寄りでFKを得ました。大きなチャンスです。

私は、解説の加茂周さんの言葉が切れたら、「狙いはビアホフの頭でしょうか」の一言を
放り込もうと待ち構えていたのです。しかし、割り込むチャンスがないままFKが蹴られ、
ボールは見事にビアホフの頭によってゴールに叩き込まれてしまいました! 

…「出てこなかった」のではなく 喉元に用意していた言葉ですから、その口惜しさたるや、
「ヒロイン…」の比ではありません。ハハハ。

「言っていたらどうだったのさ」と言われればそれまでです。しかし、実況者としては、
「さあ、狙いはビアホフの頭か。ツィーゲのFK、ビアホフのヘディング・シュートォー、
入ったゴール!」としゃべれたところですから悔しいのです。
この気持ちは経験者でないと分かっていただけないかも知れませんが。
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ただし、ユーロ2000の決勝(フランス対イタリア)では、“とりあえず”言っておいた一言が
見事に生きたこともあります。
延長に入り、ピレスが左サイドから深く持ち込んだところでゴール前で待つフランスの
選手をチェックして「正面にトレセゲがいる」と実況しました。
ボールはピレスからトレセゲに渡り、フランスのゴールデン・ゴール勝ちを実に気分よく
伝える事ができました。この件は“チャラ”かもしれません。ハハハ。

この「ビアホフ…」や「トレセゲ…」を、私は「保険」と呼んでいます。
サッカーの実況では、ボールを持っている選手の名前を言うことはとても大事ですが、
よく言われるように、ボールを持たない選手の動きを伝えることは、限られた画面しか
見ていない視聴者にとっては、ある意味もっと大事です。

私が、タッチ・ライン際を上がっていく選手やゴール前にいる選手の名前をできるだけ
言うようにしていたのは、その「保険」のためでもあります。
言っていることは事実です。仮に、そこにボールが出なくても“ミス”ではありませんし、
うまい具合にそこにパスが出れば、視聴者のイメージがつながると思うからです。
本物の保険は 病気や事故などネガティブなことが起きたときに効果が出るのですから
実際は、何も起きない方がいいわけです。しかし、私の保険は、人畜無害ですから、
どんどん何かが起きて欲しいと願いつつしゃべったものです。ハハハ。

つづく・・・
by toruiwa2010 | 2012-03-17 08:45 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(0)
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