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岩佐徹のOFF-MIKE

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言い損なった一言 2~岩佐徹的アナウンス論 24~12/03/20

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・・・つづき

さて、もう一つの「言いそこなった一言」です。

WOWOWの開局から4年間ほど、ときどきボクシング中継に駆り出されていました。
どちらかと言えば「言えなかった」のではなく、「言われてしまった」一言です。

93年3月、カムバックが軌道に乗り、かつての凄みを取り戻しつつあったタイソンが、
強烈なアッパーカットの持ち主、ラドックとラスベガスで対戦しました。
そして、この日の前座には豪華なタイトル・マッチが3試合も組まれていました。
その中に、ウェルター級のIBFチャンピオン、サイモン・ブラウンと WBCチャンピオン、
モーリス・ブロッカーが互いのタイトルをかけて対戦する好カードがあったのです。
二人は、無名時代から同じジムでトレーニングに励み、デビューも一緒、家族ぐるみの
付き合いもしている無二の親友同士でした。
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いつかはチャンピオンになろうと、互いに励ましあって来たのですが、まさか同じ時期に
同じクラスのチャンピオンになるとは思ってもいなかったでしょう。
それだけに、口をそろえて「彼を殴るなんてことはとてもできない」と言うほど対戦を
いやがっていました。
しかし、プロモーターは「だからこそ面白いのさ」とマッチメークをしてしまったのです。

踏み込んで行くタイプのブラウンに対してアウトボクシングのブロッカーがカウンターで
迎え撃つ展開が予想されました。試合を取り巻く環境を考えると、よりアグレッシブに
行かなければいけないスタイルのブラウンの方が、やりにくいと思われていました。
しかし、二人がプロとして実に見ごたえのある素晴らしい打ち合いを見せたこの試合は、
10回50秒に左フックでブロッカーをとらえたブラウンが、そのあとも連打を浴びせて、
TKO勝ちを収めました。

このとき最初のダウンを奪ってニュートラルコーナーに行くよう指示されたブラウンが、
なおもブロッカーに向かって行こうとする構えを見せました。
試合前の情報を読んで2人の“友情”に気持ちを奪われすぎていた私は「これは、まだ
打とうというのではないですよね。大丈夫かと気遣っているんですよね」と言いました。
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その解釈が決定的な間違いだったのかどうかは分かりません。
しかし、表彰式のあとで、解説のジョー小泉さんがこう言いました。
「同じような条件での試合をいやがったある選手に対して、ベテランのトレーナーが、
親友なら短く終わらせてやれ、それがボクサーの友情だと言って聞かせた」と。
それを聞いて、「それが正解かもしれない」と、あまりにも先入観にとらわれてしまった
自分の未熟さを反省したものです。

しかし、もっとグサッと来たのは、やはり 解説をしていた浜田剛史さんの一言でした。
終了直後、ブロッカーのコーナーまで行って相手をしっかりと抱きしめ かき口説くように
話しかけたブラウンが自分のコーナーに戻ったとき、その目には明らかに涙がありました。
そのことは描写したのですが、その瞬間 浜田さんが言った「勝ってさびしそうですね」に
ガ―ンと、頭を殴られたような気がしました。
この一言が試合のすべてを完璧に言い表していたからです。
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放送としては、たぶん誰の口から出てもよかったのでしょう。
しかし、言葉を扱う仕事をしているのに、普段は口数も少ない浜田さんに言われたことで、
私には「やられた」という思いが強く残りました。
こういう言葉は、しゃべる訓練を受けているかどうかには関係なく、その人の人間性から
出てくるものだと思います。

この一言は、ほとんどがアドリブのスポーツ実況の中でも、「そのとき、その場の雰囲気に
合った言葉、自然に出てくる言葉、とっさに出る言葉」が、いかに大事かを示しています。
さんざん書いてきましたが、事前に用意した言葉、その場で考えたとしても、視聴者を
うならせようとか、感動させようと思って“作った”言葉は やはりどこかむなしいです。
そして最後にモノをいうのは、人間性でしょう。だまされている場合もあると思いますが、
人気者になっている人たちは、やはりそれだけの豊かな人間性を持っていて、そこから
出てくる言葉、表現が見る人をひきつけるのではないでしょうか。

おまけ:ペナルティ

03/18
ラグビー日本選手権決勝:竹林アナ「反則です」と。
改めたのか?NHKアナはこれまで「ペナルティがあった」と
平気で言っていた。反則があって、相手にペナルティキックが
与えられるのだが、ずっと間違った言い方だった。
直したのだとしたら誉めたい。彼だけか?


少し説明が必要かもしれません。
ラグビーで反則があると、相手チームにペナルティ・キックが与えられます。
いつのころからか、両者がごっちゃになって、プレー中に反則が起きたとき、いきなり、
「ペナルティです」と言うようになっていました。違うのです。
まず、反則があり その罰として相手にペナルティ・キックが与えられるのです。
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一昨日の日本選手権決勝を終盤から見たのですが、実況した竹林アナは「反則です」と
正しい描写をしていました。
NHKのラグビー担当アナウンサーの間で話し合って、表現を変えようと決めたのか、
竹林アナだけの判断なのかは分かりません。
しかし、間違いを改めるのに躊躇することはないと思います。ずっと気になっていた点が
修正されたことですごく気分がよかったです。ハハハ。

アイスホッケーでもまったく同じことがあります。WOWOW時代には私だけこだわって
放送しましたが、長い間その言い方でやってきた解説者は直してくれませんでした。
「そうかもしれないけど、違和感があるなあ」と言われてしまうと、首根っこを押さえこんで
こう言ってください、というわけにもいかず、“独り相撲”に終わりました。ハハハ。
by toruiwa2010 | 2012-03-20 08:09 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(4)
Commented by hiroko_joan at 2012-03-21 00:12 x
岩佐さん、こんばんは。

20年ほど前の事なのに今でも悔やんでいるのですから、その「言わなかったこと」に関して相当ショックだったのですね。
話は少し違いますが、私は実況アナでどんな人がだろうと興味を持ったのは岩佐さんしかいませんよ。
分かりやすく、声も渋くてテニス実況でピカ一でした。(他のスポーツなどでは聞いたことがないので)

ブログの読者の方々は、岩佐さんの魅力や個性に引かれて集まってきていると思うので、そんなに前の事を気にしなくて良いのでは?

悔しい思いは理解できますが、普段寡黙な人が発言したから200%の威力があったのでしょう。
Commented by toruiwa2010 at 2012-03-21 07:32
hiroko_joanサン、おはようございます。

慰めの言葉?、感謝です。
ただ、そう思う気持ちは大事だと思います。

ふだん寡黙な人が・・・はまさにその通りです。
Commented by えどたろー at 2013-12-28 21:31 x
教えて頂きありがとうございます(^^)

浜田さん、タイソンが東京でダグラスに
負けた時は、強いチャンピオンが
負けるのは寂しいですねぇって
柔らかい喋り方で言ってました。
浜田さんのコメントって
凄く印象に残りますね(^^)

ブラウンとブロッカーの試合
確かジョー小泉さんが
あれはトドメを刺そうとしていた
って解説された時、岩佐さんは
いや、ぼくは違うと思うなぁ~
って反論なさってたので
このあとギクシャクしないかしら
って、少し緊張しました(^^;)

これから、過去の記事も
ゆっくり読ませていただきます♪
Commented by toruiwa2010 at 2013-12-28 22:15
えどたろーサン・・・

確かにジョーさんはプライドの高い人だから
あの「反論」は無茶だったかもしれません。
ただ、私と同じ印象を持った人もいるかもしれないと
思ったので、ついつい言ってしまいました。

別にギクシャクはしませんでした。ハハハ。
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