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岩佐徹のOFF-MIKE

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選手を見分ける苦労~岩佐徹的アナウンス論64~12/08/05

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・・・つづき

UCLの大きな問題はハード・スケジュールにあります。
各国のリーグ戦やカップ戦の間を縫って日程が組まれているので、関心は、直前の
国内戦で、担当するチームの主力がケガをしなかったか…でした。
せっかく放送するのですから戦力のダウンも避けたいところですし、それ以上に、
どのチームでも主力になっている選手は特徴があって覚えやすいので、そういう
選手には休んでほしくないのです。ハハハ。

準々決勝までは衛星で送られてくる映像だけを見ながら東京のスタジオで実況する
“オフ・チューブ”スタイルの放送ですから、特に 試合が始まった直後の数分間に
選手名を言えるかどうかが心配の種でした。
解説者はボールの持ち方やドリブルの仕方などで見分けていますし、同僚の中にも
同じような能力を持っているアナがいました。しかし、私は見分ける能力が低くて
ビデオを見ることで、選手一人一人の特徴を必死で探していきました。
“能力が低い”はジョークじゃありません。本当にダメなんです。

プロデューサーから担当カードを伝えられると、保管倉庫から両チームの試合の
テープを2、3本ずつ引っ張り出してくることから準備が始まります。そのとき、
当然ですがホームのチームはホームで戦った試合のテープ、アウェイはアウェイを
優先します。ユニフォームが変わると選手の印象がすごく違って見え、それまで
記憶していたイメージでは名前が出てこないことがしばしばだからです。たとえば、
赤黒タテ縞で見慣れているミランが白の上下を着ると別のチームに見えるのです。

見分けるのが下手だった

選手を見分けるとき、人はいろいろな方法を取ると思いますが、アナウンサーも
人によって覚え方が違うようです。そのせいか、Aアナには非常に分かりやすい
選手が、Bアナにはとても難しいということがよくあります。

私の場合、見分けるポイントは、まず髪型でした。
ロング・ヘア、ドレッド・ヘア、スキン・ヘッド、ブロンド。
チームの中で数が少ないほどその存在は貴重です。
ただし、2002年のセミ・ファイナルでは、大失敗をしました。
大歓声で聞き取りづらくなっていたので助かったものの、レアル・マドリードの
ジダンとグティを2度も間違えました。
「おいおい、どうすればその二人を間違えられるんだ」と笑われそうです。
スキンとブロンドですから、間違える方が難しいのでしょうが、私に言わせれば、
グティの頭は“ブロンド”で光り、ジダンの頭は“別の理由”でやはり光ります。
ゴール正面にジダンが走りこんだとき、思わず「グティが…」と言ってしまった
のですが、“光るものつながり”という間違える理由はあったのです。ハハハ。
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次にシューズ。
白、ゴールド、シルバー、赤…こういうシューズが増えたのは嬉しいことです。
アディダスは、3本線が遠めには白っぽく映るし、白い靴ヒモを使う選手がいて
これもシューズ全体が白く見えて目印になることがありました。
ユニフォームも参考になります。
季節の境目に一人だけ長袖、あるいは逆に半袖を着てくれたりすると「有難う」と
声をかけたくなったものです。ハハハ。
そして、ゲームの途中から(早い人もいますが)シャツを外に出してしまう選手や
かつてのカントナやヨークのように襟を立てる選手もいます。さらに、微妙ですが、
パンツの紐を前に垂らす“度合い”で見分けることもありました。

体につけるもの。
キャプテンの腕章やバンダナ、リスト・バンド、ストッキングの上から足首に巻く
テープ、すべてがありがたい目印です。
しかし、赤や黒のストッキングに白いテープならいいのですが、いつもそうとは
限りません。遠目でマンチェスター・ユナイテッドのヨークとコールを見分ける
カギは、足首の白いテープだったのに、あるときピッチに入ってきた彼らを見ると
ストッキングも白でした!
「こういうときは黒いテープにしてくれよ」と言いたくなりました。ハハハ。

私の場合、洋画を見ても登場人物をきちんと区別できるようになるまで相当時間が
かかるほど外国人の顔を覚えるのが苦手です。プレーが止まって選手の顔が画面に
アップになったとき、困ることがしばしばでした。覚えにくい選手の場合は、少し
強引ですが、誰かに似せてしまうことにしていたものです。本当に“そっくり”で
なくてもいいのです。自分が思い出すきっかけになればOKなのですから。
有名人や親兄弟、親戚、とにかく身の回りの人間を総動員しました。ワールド・
カップで韓国選手の顔を覚えるのに苦しんだとき、私のメモには「パク・チソン=
スケートの清水宏保、ソル・ギヒョン=フォンセカ、キム・テヨン=権藤監督」と
書いてありました。賛成してもらえなくても、それによって、私が思い出せれば
十分、役に立つのです。

このノウハウに加えて過去の積み重ねがあっても、私は担当カードが決まるまで
気分が落ち着きませんでした。「果たして選手が把握できるだろうか」という懸念が
常にあったからです。スタンドから実況するときはそれほど心配しないのですが、
画面だけが頼りのときは、的確に選手を“つかまえる”ことができるかどうかが
私にとってはきわめて重要でした。
なぜか?それは、試合中にときどき、ボールを持った選手の名前を連呼することで
放送のリズムを作るタイプだからです。

ほぼ全員がスキン!

00-01シーズンのチャンピオンズ・リーグ準決勝、バレンシア対リーズ第2戦では
腰が抜けるかと思うほど驚いたことがあります。前日練習に姿を見せたリーズの
選手が、挙式を控えたハート以外は 全員がスキン・ヘッドだったのです!
気合を入れるためだったようですが、こうなるとブロンドも意味を持ちませんし、
元々スキン・ヘッドが特徴だった選手も目立たなくなってしまいました。ハハハ。
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リーズの試合を担当するのは初めてですから、日本を出る前に3試合ほどテープを
見てはいたものの、目の前で練習する選手たちは誰が誰だかさっぱり分かりません。
解説の原博実さんが、ランニングをする選手を一人ずつ教えてくれるのですが、
一回りするともう分からなくなるという状態で、途方に暮れました。
「大丈夫ですよ、岩佐さん。私、全部分かりますから」と原さんが慰めるように
言ってくれても安心できません。本心を言えば「あんたが分かってても、この私が
分からなきゃ、実況はできないでしょ」。ハハハ。

その日はおかげで食事をしている間も落ち着かず、ベッドに入ってからも次々に
スキン・ヘッドが頭に浮んできて満足に眠れなかったことを思い出します。
結果的には試合が始まる直前、選手がピッチに散ったときには、ほとんどの選手が
把握できて大丈夫でした。“ポジション”が情報に加わったからでしょう。
「冗談もいいかげんにしてくれよ」がそのときの心境でした。ハハハ。

たまに、“引き分け狙い”の試合に当たることはあっても、全体を見れば文句なしに
“世界最高峰の戦い”ですからUCLは実況をしていて楽しい番組でした。しかし、
レベルの高い大会だけに、内容の低い放送は許されません。私の場合は、
そのころ年令という“マイナス”の要素が大きくのしかかってきていましたから、
瞬発力も求められるこの競技の実況をいつまでやれるかは時間との競争でした。

つづく・・・
by toruiwa2010 | 2012-08-05 06:48 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(0)
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