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岩佐徹のOFF-MIKE

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放送の“約束ごと”~岩佐徹的アナウンス論68~12/08/26

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しゃべる量をどうする?

「シェフチェンコ。切り返して、シュートーッ!」
…恥ずかしいほど裏返った声で描写したあと、私は黙りました。
振り返ると、隣の早野さんもカンのいい方ですから心得たもので、しゃべり出す
心配はありませんでした。2003年5月13日、チャンピオンズ・リーグ準決勝の
第2戦、インテルを相手にミランが先制した場面です。
手元のモニターには、喜びに沸くミラニスタたち、珍しく顔面を紅潮させている
アンチェロッティ監督、抱き合って喜び合うミランのイレブン…次々に頭に浮かぶ
フレーズを飲み込んでゴール・シーンのスローが出るまで31秒、我慢しました。

9月25日。
全米オープン初日のナイト・セッションでは、第1試合のあと、テニス界に偉大な
足跡を残したピート・サンプラスの引退セレモニーが行われました。
舞台が整ったところで呼び出された彼がセンター・コートの入り口に姿を見せると、
2万を超えるスタンドのファンが立ち上がって拍手を送り始めました。
このときも、出席者たちと挨拶を終えた彼がこのスタンディング・オベーションに
思わず嗚咽し始めたところから司会者が話し始めるまで1分53秒黙っていました。
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しゃべりたいのを我慢して画面に語らせる。
すべての人に受け入れられるかどうかは分かりませんが、私の好きなスタイルです。
「もう少し、しゃべったほうがいい」と考える人の中には、試合のハイライトや
年末の総集編などの制作を担当するディレクターもいます。
「チッ、これじゃ盛り上がんないジャン」(ハハハ)とか言ってるに違いありません。
しかし、私はその瞬間を視聴者と共有することを優先するようにしていました。

日本でテレビ放送が始まって50年、「見れば分かることはしゃべらなくていい」と
よく言われます。私たちも、アナウンサーになりたてのころ、先輩から耳にタコが
できるほどたたき込まれました。
しかし、基本はその通りですが、実際はそうも行かないのです。一つ一つのプレー、
技を描写しなくてもいいのは、フィギュア・スケート、体操、ゴルフ、テニス、
相撲など限られた種目だと思います。
まったく実況しないのではなく、「ここからが見せ場です」、「鮮やかに決まりました」、
「見事なパッシング・ショット」、「よく残しました」など、ここという場面では
視聴者の気持ちを惹きつけるように最小限の描写は入れます。
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真逆の種目もあります。ボクシング、競馬などは、“見れば分かる”と承知の上で、
ほとんどすべての動きを言葉で追います。見る人たちが映像で状況を把握しながら、
実況によって気持ちを盛り上げているからでしょう。面白いことに、アメリカでも
この両種目は、日本と同じように“ラジオ風”の実況をしています。

残りの種目は、両者の中間、つまり、少し抑え目に実況しているのが現状でしょう。
たとえば、ラジオなら「センター・サークルにはボールをはさんで手前にロナウド、
向こうにラウール、その向こうにレフェリーのコッリーナさんの顔が見えます」と
しゃべるところを、テレビでは「顔がロナウド、背中はラウール。レフェリーは
コッリーナさんです」で終わりです。
「そのメンツなら、名前も要らないわけだが」などとチャチャを入れないように。
ハハハ。

このように“どれぐらい実況するか”は、種目ごとにこれまでの放送の歴史の中で
自然に“落しどころ”が決まってきたのだと思います。あとは個人差でしょう。
ただし、その“個人差”はしゃべり手と受け手 それぞれにありますから微妙です。
わずかな差でも、実況が多いと感じれば「いちいちしゃべらなくても分かるって、
うるせえな」、逆に情報が多すぎると思えば「どうでもいいことばっかりじゃないか、
余計なことしゃべってないで、プレーを実況しろよ」などとお叱りを受けます。
視聴者もわがままですから、難しいのです。ハハハ。

テン・アンダーの次はジュウイチ・アンダー?

“落しどころ”と似ているものに、用語などについての“不文律”もあります。
たとえば、ゴルフでは、「1から10までは英語で、11以上は日本語で」という、
なんとも“摩訶不思議な”現象が定着しています。
つまり、「ワン・アンダー」、「ワン・ストローク」から「テン・アンダー」、「テン・
ストローク」までは英語のあと、いきなり「じゅういち・アンダー」、「じゅういち・
ストローク」になるのです。いつ、誰が始めたのか 今となっては分かりませんが、
長年こう聞かされてきた大多数のゴルフ・ファンには違和感はないでしょう。
「慣れ」があるからです。
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ところが、20年近く前、NHKの中継で あるアナウンサーが「イレブン・アンダー、
トゥエルブ・アンダー」と言い始めたのを聞いて「おやっ?」と思いました。
ディレクターと話し合った上での“トライ”だろうとは想像がつきました。
しかし、「フィフティーン・アンダー、シックスティーン・アンダー」あたりから
やはり違和感が出てきました。

私の記憶では、この試みはその大会だけで終わりました。本来おかしな言い方に
違和感がなく、正しい言い方のほうをおかしく感じる、それこそおかしな現象が
起きたことになります。ハハハ。
by toruiwa2010 | 2012-08-26 07:28 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(4)
Commented by 赤ぽん at 2012-08-26 09:06 x
岩佐さん、おはようございます。

今朝のアナウンス論、頭から最後まで納得です!!
アナの黙る勇気と視聴者との感動の共有、決して感動の時間を「ゴルゴル」のように
視聴者から“勝手”に奪い去っていってよい訳はないはずですから。
あまりにもうるさい・余計な事を話しすぎ・終いには声が枯れまくってるw
やらすスタッフも酷いし、アナも少しは自覚として恥ずかしくないのかな?

見ればわかる!その通り。でも視聴者は誰も我がままで、自分の良く知ってる事は
「少し黙ってろよ!」であり、知らない競技や、競馬・ボクシングは「もっとしゃべれ」
ですからねw ま、誰しもがそうでしょうけど。

サンプラスの引退セレモニーの“沈黙”の時間…まさに感動の共有でした!
そのときの放送陣もカッコイイ!と本気で思いました。
こういう放送、少なくなったような…淋しいことです。
Commented by toruiwa2010 at 2012-08-26 09:14
赤ぽんさん、こんにちは。

サンプラスのときは2人の解説者に
話を振っても、たぶん、しゃべれなかったかと。
ハハハ。
Commented by 赤ぽん at 2012-08-26 09:39 x
黒田、今日の初回は悪かったですねぇ、は、今はともかくとして…

サンプラスの時、解説の方々同様?、岩佐さんも“やばかった”のでしょうか?w
もしもしゃべってたら…ちゃんとしゃべれましたか?

聞くまでもないことでしたら、失礼致しました。
Commented by toruiwa2010 at 2012-08-26 09:44
かなりヤバかったですね。
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