ブログトップ | ログイン

岩佐徹のOFF-MIKE

toruiwa.exblog.jp

実況、ドラマなど放送全般、映画、スポーツ全般、 旅、食、友 etc

“謝っておこう”という考え方~岩佐徹的アナウンス論93~11/17

d0164636_752010.jpg
フジテレビに入社したのは昭和38年(1963年)でした。
研修を終えて実戦に入っても、“若造”にはやれることも少なく、自分の席で新聞を
読んだり、先輩の仕事を見学したりして過ごしていました。
「おっと、チョイマチだぞ」と先輩が声を上げるのとデスク(主任)の前に置かれた
“ガラ電”がけたたましく鳴り出すのがほぼ同時でした。

ガラ電は手回し式の黒電話のことで、アナウンスルームと主調整室を結んでいます。
ダイヤルする必要はなく、ハンドルを回せば相手の電話が鳴る緊急用回線です。
相手が受話器を取り上げるとハンドルが重くなりました。懐かしいなあ。
チョイマチとは「ちょっと待って」の略です。
d0164636_7544419.jpg
ストップ・ウォッチを手に大急ぎで部屋を出ていく先輩を見送った目でテレビを
見ると、画面には“しばらく、そのままでお待ちください”の文字が出ています。
何かしら不具合が生じて、映像か音声が中断していることを告げているのです。
今はほとんど見なくなりましたが、かつては、しばしば発生していました。

先輩がいないときには、新人でも飛んでいって“お詫びアナウンス”をしなければ
いけませんから、入社から半年ぐらいは、このガラ電が鳴るのが“恐怖”でした。ハハハ。

今はどうなっているか分かりませんが、私が現役だったころ、グランド・スラムの
どの会場でも、放送席のすみには大きなカードケースに入った“詫びアナ”用の
原稿が置かれていました。放送中に起こるかもしれないさまざまな不具合(事故)に
対応するコメントが何十種類も用意されていました。
フジテレビや日本テレビなど、普通の地上局でも、視聴者からはありとあらゆる
種類の電話がかかってきます。「アナウンサーがこう言ったが、おかしいではないか」、
「キャスターの発言がけしからん」、「字幕の字が違う」というクレームに始まって、
「さっきのドラマで女優が着ていたTシャツはどこで買えるか」、「あのドラマの
○回目に登場したカフェは東京のどこにあるのか」…
「お前が調べろよ」と言ってやりたくなるものまで。ハハハ。

有料放送のWOWOWは、放送開始前から神経を使っていました。
「金を払っているから、言いたいことを言わせてもらうぜ」という加入者からの
電話の数は地上波との比ではありません。
ちょっとでも映像が乱れたり音声が途切れたりすると、何はさておき、お詫びの
テロップを出し、アナウンスでもお詫びをするのです。「とにかく(とりあえず)、
謝っておこう」。ハハハ。
実際はどうなのか分かりませんが、謝罪の言葉の有無で、たぶん、クレーマーの
気持ちに差が出るのだと思います。放送局にとっては、一種の“保険”といって
いいでしょう。

現役時代はもちろん、一視聴者の立場になった今でも、私は、ほんのちょっとした
ことでいちいちテロップは出す必要はない、まして、画面にテロップを出したら、
アナウンスは要らないと思っていますが、視聴率や加入者数をアップさせることを
目指している編成や営業の関係者はどうしても神経質にならざるを得ません。

かなり前ですが、このブログに「WOWOWは謝るのにスカパーは謝らない」旨の
書き込みがありました。
事故のたびに謝っているとキリがないから謝らないのか、クレームが来た段階で
カスタマー・センターの担当者が謝ればいいと考えているのか、いちいち謝る方が
おかしいと開き直っているのか。
正解は分かりませんが、書き込みどおりだとすると、ずいぶん大胆な戦力だなあと
思ったものです。ハハハ。


私流の考え方ですが、放送には数種類の「保険」があります。
「左サイドから○○がするするっと上がっていきます」など、画面に映っていない
プレーやベンチの動きを描写しておくこともそのひとつでしょうし、「いま、少し、
痛みをこらえるような表情を見せました」、「右足を気にしています」とわずかな
ことでも“情報”として伝えておくことも一種の“保険”です。
(“保険”という考え方~岩佐徹的アナウンス論 23~ http://t.co/dEvtt6HA )

もうひとつが今回のテーマでもある“お詫び”です。
d0164636_7534891.jpg
1974年12月11日…35年たった今も忘れられない出来事がありました。

その1ヶ月前、家族を乗せた車が大分県・別府湾に“転落”し、運転していた男は
自力で脱出したものの、妻子3人が死亡しました。
妻子にかなり高額の保険がかけられていたことが判明し、助かった男に疑いの目が
向けられました。
この日は、潔白だと主張するその男、荒木虎美を「3時のあなた」のスタジオに
招いていました。

番組のすべてを 彼の言い分を聞き、疑問に答えてもらうことにあてる予定でした。
司会は寺島(富司)純子さんで私がアシスタント、ほかに推理作家の戸川昌子さんと
大谷羊太郎さんがいて、疑問をぶつけることになっていました。

荒木が言いたいことを言えたのははじめの10分ぐらいで、あとは主に戸川さんが
繰り出す鋭い質問に答えなければいけない立場に変わりました。初めはとぼけたり、
シラを切ったりしていました。しかし、やがて答えに詰まるようになると苛立ちを
見せ始め、最後には「私の言い分を聞くと言うから出てきたんじゃないか。こんな
質問に答えていられるか」と、席を立ってしまいました。

スタジオの出口で追いついた寺島さんと私で何とか席に戻るように説得しましたが、
聞こうとしません。彼の主張は、「約束が違う」でした。
押し問答が続くうちにスタッフの一人が近づいてきて「Mさんが、謝っておけと
言ってます」と耳元でささやきました。番組全体を仕切るプロデユーサーです。

よくあることですが、あとで番組が犯人扱いしたとクレームをつけられないように、
それこそ“保険”の意味で謝罪しておけということなんです。
「やれやれ、ずるいんだからなあ」と思いましたが、出演者で誰がその役をするかと
言えば、局アナの私しかいません。
しぶしぶ「大変、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と頭を下げました。

荒木はこの日の夕方、フジテレビの敷地内で待ち構えていた警察に逮捕されました。
細かないきさつは覚えていませんが、ディレクターから事前に連絡を受けていた
警察が手はずを整えていたのです。
荒木は裁判でも、持ち前の粘りを発揮しましたが、刑務所内で病死しました。

番組の中で謝るのは、万一あとで問題になったとき「謝罪したじゃないですか」と
言えるようにしておく…そう、“保険”をかけておくという考え方に基づいていると
思って間違いありません。
ついでですが、謝らされるのは例外なく“局アナ”です。その番組の看板である
タレントや元局アナは“知らん顔”です。

…報道ステーションで古舘キャスターが謝っているのを見たような気がします。
ただし、それは、字幕の間違いのような単純ミスで彼の名前に傷がつくものでは
なかったようです。彼自身の判断で謝ったのでしょう。
局や番組が謝罪を決めたときは局アナにその役目を押し付けるのが普通です。

視聴料が生命線のNHKは事故や間違いにどこよりも神経質です。
だから、画面に映ったセレブの名前などをむやみに言わないのです。…と思います。
名前の知られた男性アナが痴漢容疑で逮捕された件では局内がひっくり返るような
騒ぎになっているに違いありません。ハハハ。

なお、現役のころの私は60歳ぐらいから、口では「申し訳ありませんでした」と
言っても、決して頭を下げませんでした。髪が薄くなってきたからです。ハハハ。
by toruiwa2010 | 2012-11-17 07:56 | 岩佐徹的アナウンス論 | Comments(2)
Commented by ひろ☆はっぴ at 2012-11-17 16:05 x
接客を生業にしておりますので、お詫びすることが日常のルーティーンのようになっています。回数を重ねますと謝り方が上手くなります。上手くなっても、嬉しくないですがσ^_^;

火事と同じで小さいうちに消すのが大事なのかもしれませんね。大したことはない、と高を括っているといつの間にか大事になってしまうということでしょうか。
Commented by toruiwa2010 at 2012-11-17 16:59
ひろ☆はっぴサン、今晩は。

客商売は余計大変ですね。
テレビも似たようなもんですが。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。