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岩佐徹のOFF-MIKE

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自薦・厳選300? スポイラの“怪挙” 14/03/30

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Sidd Finchを知ってるかい? ( 2005.04.01 初出 )

間もなく、メジャー・リーグが開幕します。
ファンはどんな気持で開幕を待っているのでしょうか?

今からちょうど20年前、1985年の今日、アメリカの代表的なスポーツ週刊誌、スポーツ・
イラストレーテッドを読んで仰天し、期待に胸をふくらませたニューヨーク・メッツの
ファンはきっと多かったでしょう。8年連続Bクラスのあと84年はようやく2位になり、
12年ぶりの優勝が現実味を帯びていました。そこへ、キャンプ地、セント・ピータース
バーグから「すごい新人が現れた」という嬉しいニュースが飛び込んできたのです。
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シド・フィンチ(Sidd Finch)というのがその28歳になるルーキーの名前でした。
彼とメッツが初めて接触したのは前年の7月でした。
傘下のタイドウォーター・タイズ(3A)がプレーをしている町にふらりと現れた彼はホテルの
そばで監督を待ち受け、「ピッチングの仕方を知ってる」と言いました。
興味を示さない監督にかまわず、彼は、ちょうどバッテリー間ほどの距離のところにある
フェンスの上においたソーダのびんめがけて使い古したボールを投げつけたのです。
ビンをこなごなにしたボールは、監督に言わせると、「私のスリー・アイアンと同じぐらい
飛んだ」そうですから、およそ200㍍でしょうか。

監督は思わず「なあ、もう一度やって見せてくれないか?」と頼みました。ハハハ。
強烈だったのはそのコントロールではなく、スピードでした。「何てことだ。150㍄(240㌔)
ぐらい出てるんじゃないのか」とうなってしまいました。
彼が語ったところでは、「ほんとに野球をやりたいのかどうか、はっきり分からない。
ただ、トライしてみたいんだ。野球は一度も経験がないけど、ルールは知っている。
ピッチングを覚えたのはチベットの山の中」だそうです。 

ニューヨークの球団本部で報告を受けた球団首脳は半信半疑でした。当時のメッツ監督、
デーブ・ジョンソン(元巨人)が電話で確認をした上で、テストのために彼をスプリング・
キャンプに招く事が決まりました。
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こうして、キャンプに参加したフィンチはなぞの多い男でした。
イギリスの孤児院で育ち、のちに考古学者の養子になった。仏教の修道士としてヒマラヤで
過ごした時期がある。ハーバードに籍を置いたこともあるが、やがて、チベットに戻った。
フレンチ・ホルンの名手でもあり、野球を選ぶか、音楽の道に進むかで迷っている。
極めて寡黙で、朝の挨拶も、帰るときの挨拶も「ナマステ」…。
分かっているのは、こんなところです。

彼のために、球団は周囲をキャンバスで囲んだ専用の練習場を設営しましたが、その中で
何が行われているかを知る関係者はわずかでした。
ただし、練習相手はどうしても必要です。
まず、投球練習の相手として指名されたのは控えキャッチャーのレイノルズでした(当時の
メッツの正捕手はゲリー・カーター)。トレードを通告されるのかと緊張するレイノルズに、
身を乗り出したゼナラル・マネージャーが囁いたのは「君は、歴史の一部になるだろう」
という言葉でした。

フィンチが初めて投球をした日、普通のピッチャーと同様に、何球か肩ならしをしたあと
本格的な投球に入るものだと思い、立ったまま、マスクも胸当てもせずにミットを構えた
レイノルズは、驚愕します。
帽子をうしろ向きにかぶるのはまだ分かるとして、右足にはハイキング・ブーツを履き、
左ははだし! そして…
「いきなり、プレッツェルがよじれたようなフォームが目に入ったと思ったらつぎの瞬間、
2、3フィートうしろに吹っ飛ばされて尻もちをついていたよ。(ボールを受けた)左手は、
まるでハンマーで殴られたみたいだったぜ」。ハハハ。
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3月17日、ストットルマイヤー・コーチの手にはスピード・ガンが握られていました。
そして、レイノルズが悲鳴をあげた1球はなんと168㍄(270㌔)を記録したのです!! 
思わず口笛を吹くストットルマイヤー。
レイノルズは「メル(ストットルマイヤー)、数字を言わないでくれ。知りたくもないよ」と
言ったそうです。ハハハ。

球団側の期待は日を追って高まりましたが、肝心のフィンチの気持ちは誰にもつかめず、
彼らにできるのは、待つことだけでした。
ようやく数日前に「4月1日前後には、野球を続けるかどうかを首脳陣に伝える」という
言葉をもらったところです。

このスポーツ・イラストレーテッド誌の記事は全部で14ページに及ぶ長いものです。
球団オーナーやピッチング・コーチ、ストットルマイヤーなどチーム関係者の話は勿論、
アジアの宗教に詳しい学者や音楽の専門家からの取材で得た証言までちりばめてあって、
引き込まれます。
ピンポイントのコントロール、しかも、270キロというケタはずれのファスト・ボール。
この記事を読んだメッツ・ファンの気持がどんなものであったか、想像がつきますね?
入団決定が発表されれば、シーズン席の売上げが急上昇することは間違いなしです。

…あ、ひとつ書き忘れていたことがあります。
この記事のタイトルは「THE CURIOUS CASE OF SIDD FINCH」となっていますが、
すぐ下のサブ・タイトルにはこう書かれていました。
「He’s a pitcher,part yogi and part recluse.Impressively liberated from our
opulent life-style,Sidd’s deciding about yoga―and his future in baseball」
(彼はピッチャーであり、ヨガもするし、修行僧でもある。われわれの豊かな生活スタイルに
とらわれることなく、ヨガと野球、どちらを選ぶか決めようとしている)となっていました。

この文章の、一語一語から最初のアルファベットを抜き出してつなぎ合わせると…
H-a-p-p-y A-p-r-i-l F- o-o -l-s D-a-y …4月バカ、おめでとう!
えっ、なんですって!? そうか、雑誌の日付も1985年4月1日になっているし、完全に
一杯食わされましたね。って、書くのはしらじらしいですかね。ハハハ。

周到に仕組まれた物語、実在の人物たちを配した巧みな設定、何よりも、定評ある雑誌、
イラストレーテッドという舞台…「そんなバカな…」と思いつつ、引っかかった人は
全米で何万人もいたことでしょう。
しかも、スポイラは翌4月8日号でも「フィンチが記者会見を開き『ファスト・ボールを
投げるために不可欠な制球力を失ったので野球を続けることをあきらめた』との声明文を
読み上げた。さらに、ストットルマイヤー・コーチへの感謝、レイノルズには、
(ボールを受ける)左手にひどい仕打ちをしたことについて謝った」と報じ、すべてが
でっちあげだと認めたのは、さらに翌週の4月15日号でした。ハハハ。
by toruiwa2010 | 2014-03-30 09:32 | 岩佐徹的考察 | Comments(2)
Commented by ヱビスの黒生 at 2014-03-30 14:00 x
岩佐さん、こんにちは。

さすがスポイラ、大がかりですねぇ。

日本では昨日もコメントにありました東京新聞がやってくれてますが、他の報道機関や雑誌などでもやってくれたらいいのにと思いますけどね。
このスポイラのネタほど大がかりじゃなくてもいいので。

そんな余裕もないし、年度初めからふざけてんじゃねぇとまじめに怒っちゃう人が多いからですかね。
Commented by toruiwa2010 at 2014-03-30 14:06
ヱビスの黒生さん、こんにちは。

日本でなかなか”傑作”が生まれない背景に
暦があるかもしれませんね。
「新しい年度の初日」というのが心理的に
ブレーキをかけているかも。
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