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岩佐徹のOFF-MIKE

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自薦・厳選300? 傑作ドキュメンタリー・ムツばあさん14/08/09

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数年前にNHKが放送したこのドキュメンタリーは
見る者の胸を打つ傑作です。
「ぜひご覧なさい」と自信をもって勧められます。
2本の記事を書きましたが、1本にまとめました。


最高のもみじ(2007.12.13 初出 )&
ムツばあさん いく~秩父山中 花のあとさき(2009.07.24 初出 )


「花って 香りがそれぞれ違うしねえ。色も違うし。
みんな、器量一杯咲いてくれるから…可愛いよう」

「おじいさんも遠くに行っちまった。
どこまで行ったんだか」

「なんとなくなあ、さびしくも恐ろしくも
ないんだけど、つい涙もろくなっちゃった」

「日が入ったら(太陽が沈んだら)、小鳥とおんなじだ。
中に入って寝てしまう」
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…淡々とつむぎ出される言葉のひとつひとつが心に響いてきます。
そして、なんとも言えず、穏やかでいい顔をしています。
顔中に刻まれた深いしわが彼女の豊かな人生を物語っています。
農家の嫁として苦労はあったでしょうが、その表情を見ると、誰にも恥じることのない、
満ち足りた、“凛とした”人生を送った人なのだと容易に想像できます。
上を向いて生きる堂々たる人生…人間、こんな一生を送りたいものだと思わされます。

小林ムツさん、83歳です。
まるで、働かないことは罪悪だとでも言うかのように、すっかり腰が曲がった小さな体を
ひと時も休めることなく、せっせと仕事に精を出すムツさんには“神々しさ”を感じます。

埼玉県秩父市吉田 太田部 楢尾(おおたぶ・ならお)。
とつとつとした語り口で味わい深い話し方をする彼女が夫の公一さんと暮らしていたのは、
過疎化が進む秩父の山間の村落でした。
かつては急な斜面を耕した段々畑に桑を植え、養蚕(ようさん)を生業としていたそうですが、
道が通ったことで町に出て働く人が増え、農作業をする人もわずかになりました。

そんな中、ムツさん夫婦は世話になった桑畑を“山に返す”作業を黙々と続けていました。
10数年かけ、1万本以上の木々を植えてきたのです。“返す”という考え方がいいですね。
感謝の気持ちをこめ、通りすがりの人が喜んでくれれば嬉しいのだと言います。
夫婦の生活ぶりをNHKのカメラがていねいに記録し、シリーズで放送していました。
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週刊誌のコラムでこのことを知って最初に見たのは第2作(?)の「秩父山中 花のあとさき 
ムツばあさんの秋」でした。冒頭の数分間を見ただけで惹きこまれてしまいました。
長い取材ですっかりなじみになったカメラに向かってムツさんは淡々と語りかけます。
少し前に夫を亡くした寂しさ、坂だらけの畑での仕事の厳しさをさっぱりした口調で語り、
畑を荒らすイノシシに対しても、腹を立てるのではなく、むしろ、彼らからえさを奪った
人間の“身勝手さ”を静かに叱ります。“構える”わけでもなく、いいことを言おうとして
言葉を選ぶわけでもありません。手あかのついた表現しかできないのが口惜しいですが、
“心を洗われる”思いでした。

何よりも心惹かれたのは“秩父の語り部”と呼びたい彼女が話す言葉の数々です。
考えて話しているわけではありません。頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしているだけで、
うまく話そうという“邪心”もありません。
それなのに、聞く人の胸を打つ…唐突ですが、スポーツの実況にも通じます。
状況そのものが人々の共感や感動を呼ぶとき、“絶叫”はもちろん、事前に準備された
飾り立てた言葉、頭の中で作られた言葉は必要ないと教えてくれていると思うのです。

公一さんが亡くなったとき、周囲は「一年たてば寂しくなくなるから」と言ってくれた
そうですが、ムツさん本人が今年の6月、脳梗塞で倒れ、今も入院したままのようです。
聞きたくなかった…と思います。しかし、彼女が“夢の中”で、二人で植えた木々が
色とりどりの花を咲かせている光景を眺めて満足しているかもしれない、と考えれば、
胸の痛みも少しは和らぎます。

体が弱ったことを自覚したムツさんが、山を下りて息子のところで冬を越そうと決め、
最後に残った畑の中央に植えたハナモモの苗木は1年後の今年は、もう、彼女の背丈を
追い越すほどに成長しています。
そして、公一さんと一緒に、20年前に植えたもみじが11月 あざやかに色づいていました。
今年、裏磐梯から京都まで、各地をめぐって見たどんな紅葉も及びません。
画面でしか見られなかったのは残念ですが、最高のもみじでした。
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倒れてから2年…
2009年7月20日に放送された「秩父山中 花のあとさき~ムツばあさんのいない春~」で、
その年の1月に亡くなったことを知りました。
番組は、過去の映像に加え、ムツさんの人柄に惹かれて、彼女が育てた花々を見るために、
わざわざ秩父の山奥に足を運ぶ人々の様子を紹介していました。

予告で亡くなったことを知っていただけに、ムツさんが出るたびに、画面がにじみました。
彼女の言葉を中心に制作された、この「秩父山中…」シリーズは、“人の幸せ”について
淡々と語りかけてくる、ドキュメンタリーの“傑作”です。
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by toruiwa2010 | 2014-08-09 08:27 | 自薦・厳選300? | Comments(6)
Commented by 赤ぽん at 2014-08-09 13:38 x
岩佐さん、こんにちは。

なんら飾ることなく素直にこちらの心に染み込んでくる言葉の数々と
しわの刻まれた優しい笑顔(よいお顔されてましたね)に
全然違うのになぜか自分の死んだばあちゃんを勝手に重ね合わせ
画面がにじみました。

NHKの製作スタッフも確かに丁寧にムツばあちゃんと接してきたであろう
お互いの関係性までもが見えたような素晴らしい番組でした。
確か岩佐さんの記事で見てみようと思い、本当に見てよかった!です。

秩父、山しかない所ですが数年に一度は訪れています。ですが
景色は行けばみられますが、簡単には出逢えない“よい人”と出会ったような
そしてしみじみとした余韻の残った素晴らしい番組でしたね。
Commented by toruiwa2010 at 2014-08-09 14:26
赤ぽんサン、こんにちは。

ドキュメンタリーは好きでよく見ますが、
この作品は歴代のトップクラスです。
Commented by まっちゃん at 2014-08-29 21:10 x
 初めまして。
「花のあとさき」検索で辿り着きました。

 「秩父山中 花のあとさき、2編」を偶然録画して、何度か見てるうちに行ってみたいなーと思うばかり…
むつさんのお顔を見ながら、田舎の祖母を思い出します。

 むつさんの言葉一つ一つが心にひびいてきます。
私もそんな歳になりました。

 最後の放送を見逃してしまい残念です。
Commented by toruiwa2010 at 2014-08-29 21:40
まっちゃんサン、こんばんは。

私は遅く生まれた子供だったので
祖母との思い出がありません。
しかし、むつサンは自分が知らない
祖母その人のように思えます。
Commented by adjadjadk at 2016-06-06 10:20
こんにちは。
勝手にお邪魔し、お気に入り登録もさせていただきます。ムツさん、おもいだすといまでも涙腺が緩みます。ありがとうございました。
Commented by toruiwa2010 at 2016-06-06 10:21
adjadjadkさん、こんにちは。

今でも鮮やかに穏やかな顔が目に浮かびます。
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