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岩佐徹のOFF-MIKE

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小説「64 ロクヨン」読了~より鮮明になる感情のヒダ~15/07/14

闇に風花が舞っていた。
タクシーを降りる足が縺れた。ポリスジャンパーを着込んだ
鑑識係員が、署庁舎の玄関前で待っていた。
促されて署内に入った。当直勤務員の執務スペースを抜け、
薄暗い廊下を進み、裏の通用口から職員用駐車場に出た。
霊安室は、敷地の奥まった一角にひっそりとあった。窓のない
バラック建ての小屋。低く唸る換気扇の音が「死体保管中」を
告げている。鍵を外した鑑識係員はドアの脇に退いた。ここで
お待ちします。そんな控え目な目配せを残して。
祈ることすら忘れていた。
三上義信はドアを押し開いた。蝶番が鳴く。クレゾールが目と
鼻にくる。肘の辺りに、コートの生地を通して食い込む美那子の
指先を感じていた。
天井からまばゆい照明が降って来る。腰の高さほどの検視台に
青いビニールシートが敷かれ、その上に、すっぽりと白い布に
覆われた人形(ひとがた)の隆起が見て取れた。
大人にしては小さく、かといって幼い子供だとも思えない、
その中途半端な布のふくらみに三上はたじろいだ。
――あゆみ。
瞬時に呑み込んだ。娘の名を呼べば、娘の遺体になってしまう
気がした。
白布を捲る。

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横山秀夫の小説「64 ロクヨン」の冒頭部分です。視聴率はともかく とても質が良かった
NHKドラマの原作です。物語の行く末を暗示するような書き出しです。
放送が終わったあと、胸に空洞ができたような感覚がありました。“クールな”(ハハハ)
私にしては珍しいことです。それほど、ドラマの世界、ピエール瀧が作りだした世界が
衝撃的だったということでしょうか。
朝ドラマ「あまちゃん」終了後、“あまロス”症候群がメディアに取り上げられているのを
見たときは「そんな馬鹿な」と鼻の先で笑っていたのに、自分が似たような症状になって
少々 うろたえました。ハハハ。

横山の小説を読むのは初めてでした。
映画の「半落ち」、「クライマーズ・ハイ」、「臨場」とテレビドラマを何本か見ましたが、
原作を読もうという気持ちにはならなかったのです。しかし、「ロクヨン」を見たとき、
「これなら、原作もきっと好みに合うはずだ」と確信しました。
…その通りでした。

短めの文章を重ねたスピード感のあるスタイルが気に入って、読みかけだったジョン・
グリシャムを中断して上下2巻を一気に読みました。ストーリーは分かっているのに
小説として改めて楽しみました。
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会話の部分もいいです。
現実の会話はもう少し言葉の数が多いのではないかと思いますが、セリフを読むだけで
話している人物がどんな男(女)なのかが伝わります。ドラマで演じた俳優のイメージが
かぶることが多いですが、特にピエールは三上像を完全に再現していたことが分かります。
ほかにも、美那子(木村佳乃)、雨宮(段田安則)、幸田(萩原聖人)、美雲(山本美月)といった
登場人物のキャスティングは大成功だったと思います。

そして、本を読むと、ドラマの中のセリフが原作をかなり忠実に“なぞって”いることが
分かりました。原作のセリフがいかに完成されたものだったか…ということでしょう。
そこをいじらなかったことが上質なドラマに仕上がった大きな理由のような気がします。

小説にはセリフ以外に“説明”的な部分があってそこに感情のひだが書かれています。
そのために、登場人物たちの相関関係や心の動きがドラマより鮮明になります。
面白いなと思ったのは、三上と部下の婦人警官・美雲の関係です。
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美雲は三上を上司として尊敬し、全面的に信頼しています。
刑事(刑事部)をしていた三上が、組織内で対立関係にある警務部所属の広報官になって、
両者の間で板挟みになっていることを理解し、少しでも役に立ちたいと願っています。
三上はその気持ちを痛いほど感じていますが、マスコミを相手にして ときには汚い手も
使うような仕事を三雲にさせてはいけない…という思いがあります。

ドラマを見ているとき、親子ほど年齢が離れている二人の間に恋愛感情があるなどとは
思わないものの、独特の“空気”が流れていると感じました。年甲斐もなくキュン!
ハハハ。

ドラマは最高でした。
小説も十分楽しめます。
by toruiwa2010 | 2015-07-14 08:53 | 読書・歌・趣味 | Comments(6)
Commented by モリパー at 2015-07-14 09:47 x
おはようございます。『64』もいいですけど、『クライマーズハイ』は是非原作を読んで頂きたいです。ドラマも映画も観ましたがドラマの方が良かったです。原作により忠実でした。
Commented by toruiwa2010 at 2015-07-14 10:00
モリパーさん、こんにちは。

「クライマーズ・ハイ」…ドラマは
見ていませんが、映画は見ました。
95点をつけました。
「おくりびと」がなければ、あの年の
ナンバー1を「歩いても歩いても」と
争ったでしょう、私の中で。ハハハ。

5月ごろの公開だったものを12月に見ました。
200人ぐらいのスクリーンに客は私だけでした。
だから95点・・・じゃありません。
Commented by 老・ましゃこ at 2015-07-14 13:40 x
私も原作を読みました??
読みやすい文章で、頭の中に情景や場面が浮かんでくるという具合で
一気に読み終えました。
二渡はクールで印象的な人物だなと思い、
ある意味主人公よりも魅力的だなぁと思ったりもしました(^^)
来年の映画公開も楽しみです…見逃さないようにしなくては??
Commented by toruiwa2010 at 2015-07-14 13:47
老・ましゃこサン、こんにちは。

映画・・・佐藤浩市であの味が出せるか?ですね。
Commented by un deux san at 2015-07-14 18:23 x
ウィンブルドンの決勝が終わったので、岩佐さんはなんと書いておられるかと久々拝見しました。決勝についてはなかったですが、ナダルの記事・・嬉しかったです。 2008年の決勝忘れられません。勝手ながらBLOGで岩佐さんの事を紹介させていただきました。
ナダル 10年になるんですね~。カプリパンツでショットが決まるとピョンピョンしてたのが懐かしいです。
Commented by toruiwa2010 at 2015-07-14 18:46
un deux sanサン、こんばんは。

私がナダルを初めて見たのは
2005年の全仏でした。まさに少年でした。
それも、礼儀正しく、強い少年でした。
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