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岩佐徹のOFF-MIKE

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まさに“神の声”だった 自薦・厳選300? 16/07/03

“神の声”が99歳で逝った
~The Voice of NY Yankees~ ( 2010.07.15 初出 )
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“Your attention,please,ladies and gentlemen.
Here are the line-ups for today’s game…”


深くて重量感のあるその声がスピーカーから流れてくると、何をしていても、手を止めて
聞き惚れてしまったものです。オーバーでなく、身が引き締まる思いがするのです。
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ボブ・シェパードが亡くなりました。
日本ではなじみのない名前ですが、アメリカ、特にニューヨークのスポーツ・ファンで
彼の名前、いや、声を知らない人はいないでしょう。

ヤンキースの場内アナウンサーだった彼が最後の仕事をしたのは2007年9月5日でした。
病気で倒れたとき、すでに97歳(!)でしたから、再びブースに戻ることはないだろうと
覚悟していましたが、実際に亡くなったという報道に接すると感慨深いものがあります。

2日後にヤンキースの“名物オーナー”、ジョージ・スタインブレナーが亡くなりました。
私がメジャーをフォローし始めたとき、すでにオーナーでした。
たまたま、親会社のトップだったためにオーナーになった、というケースが多い日本に
くらべたらはるかに野球好きで情熱も持っているメジャーのオーナーの中でも、彼ほど
“血気盛んな”男は珍しいでしょう。感情の起伏が激しく、言い争いの挙句に辞めた、
あるいは辞めさせられた監督やGMは数え切れないほどいます。
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しかし、選手やファンから彼ほど慕われたオーナーもいないでしょう。
昔のヤンキー・スタジムでは、正面入り口から少し三塁側に寄った所にチーム関係者や
報道陣が出入りするゲートがありました。
試合開始の数時間前から、そこには大勢のファンが待ち構えていて、球場入りする選手が
通るたびに歓声を上げていたものです。
スタインブレナーが姿を見せると、ファンの間から“ジョージ、ジョージ”のコールが
起こったものです。ファンからファースト・ネームで呼ばれるオーナー…日本では100年
経っても見られない光景でしょう。憎まれ、それ以上に愛されたオーナーでした。


話がそれました。大好きだったボブ・シェパードに戻しましょう。
このブログで取り上げた過去の記事をまとめておきます。

「ボブ・シェパードとヤンキー・スタジアムは同義語だ」とさえ言われていました。
「神の声」とも呼ばれ、2000年5月にはレフト後方のモニュメント・パークにベーブ・
ルースやルー・ゲーリッグ、ミッキー・マントル、ジョー・ディマジオたちに混じって
額が飾られました。そんじょそこらの場内アナではありません。メジャー・リーグの
ファンならきっと一度は聞いたことがあるはずです。
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「日本では、場内放送は女性がやるんだそうだね?一度聞いてみたいもんだなあ」
その声に惹かれて、どんな人がその持ち主なのかと興味を持ち、ヤンキー・スタジアムの
彼のブースを訪ねたときの短い会話の中でボブ・シェパードは穏やかな笑顔で言いました。
30年以上も昔の話です。
彼自身が伝説的な場内アナウンサーでした。
英語ではPA(=Public Address) Announcerと言い、メジャーでは、私が知る限り例外なく
男性がつとめています。

威厳と深みがあって、重厚なその声はまさに“神の声”と呼ぶにふさわしいものでした。
画面を見ていなくても、彼の声が聞こえると、頭の中にはヤンキー・スタジアムの情景が
あざやかに浮かびました。
きっと、ざわめいていたスタジアムも、アナウンスが始まるとシーンと静まりかえって
耳を傾けていたことでしょう。

かつてセント・ジョンズ大学教授としてスピーチを教えた経歴を持ち、言葉の一つ一つを
かみしめるように、センテンスごとに十分な間合いを取っていく彼の“ドラマチックな”
アナウンスにはそれだけ聴く者の気持ちを惹き付けるものがあるのです。

長い間、“年齢不詳”でした。
取材を受けているときでも、年齢のことが持ち出されると「次の質問は?」とはぐらかし、
「じゃあ、これで終わりにしよう」と席を立ったりしていました。ところが、5年ほど前に、
あるチーム関係者が“1910年10月12日生まれ”であることを確認したために、この説が
定着したのです。…だとすると、97歳!!!! それでいてあの力強い声!

初めてマイクの前に座ったのは1951年、レッド・ソックスを迎えた開幕戦でした。
伝説的な名選手、ジョー・ディマジオの最後の、そして、ミッキー・マントルの最初の
シーズンだったのも象徴的です。
この日の先発メンバーには、ふたりのほかに、J・マイズ、Y・ベラ、P・リズトー、
レッド・ソックスには、T・ウイリアムズとL・ブードローがいたそうですから、のちに
殿堂入りした選手が合わせて7人もいたことになります。
メジャー・リーグが最高に華やかなころだったと言っていいのでしょう。

6年ほど前に「アナウンスするのが楽しかった選手は?」と聞かれたとき、彼は、まず、
ミッキー・マントルと答えています。リズムがあるのだそうです。
そして「響きがなんともいえずいい」を理由に2番目にあげたのが「She-ge-TOH-shi,
Ha-se-GA-wah」でした。
昨日のオール・スター・ゲームで解説していた長谷川滋利です。
母音が多いほうが好きだそうですから、「he-Deh-kee, ma-Tsu-ee」もリストの上位に
入っていたことでしょう。

そんじょそこらの…と書きました。
“メッセージ”を発信することもできる人でした。
典型的な例を書いておきます。

1985年秋、ヤンキースはトロント・ブルージェイズと首位を争っていました。
ヤンキー・スタジアムで行われた4連戦の第1戦の試合前、アメリカ国歌に先立って
カナダ国歌“O Canada”が場内に流れたとき、ヤンキース・ファンは“宿敵”の国歌に
ブーイングを浴びせました。
翌日、カナダ国歌を流す前に、シェパードは、カナダが2度にわたる大戦でアメリカと
ともに戦かったこと、NATOの同盟国であり、イランのアメリカ人の人質救出にも力を
貸してくれたことを話し、その国歌はリスペクトされるべきだと、前日のブーイングを
戒めたそうです。

アメリカを愛する気持ちは人一倍強いのだと思います。
私の耳では、はっきりと聞き取れないのですが、現役最後の数年は、7回表が終ったあとの
アナウンスで「イラクなどで戦っている兵士たちを忘れないようにしよう」という意味の
呼びかけをしていたようです。
“9.11”のあともそうでしたが、こういうときの彼の声としゃべり方には、人の気持ちを
惹きつける力がありました。思わず、背筋が伸びてしまいます。

しかし、2007年シーズン終盤以後、耳になじんだ彼の声を聞くことはなくなりました。
ただし、いかにもメジャーらしい“例外”はあったのです。
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2008年の春先から、パソコンに向かっているときに、テレビから彼らしい声が聞こえて
はっとすることがありました。「あれ、戻ってきたんだ」と、改めて画面に集中すると、
やはり、流れてくるのは“代役”の声でした。
「まだダメなんだ」と思いつつ、“あの声”はなんだったのかと不思議でしたが、ネットを
検索していて、“疑問”を解消してくれる記事に出会いました。

<<<今日、ヤンキー・スタジアム最後の開幕日のラインナップがアナウンスされるとき、
マイクの前にいるのはボブ・シェパードではない。
シェパードは病気から回復中で、今はシーズン半ばには戻りたいと願っている。
ただし、それでも、ボブ・シェパードの声は聞こえてくるだろう。
昨シーズン、デレク・ジーターは、確実にそうなるように画策したのだ。
「彼に頼んで僕の紹介アナウンスを録音してもらったのさ。いつもボブ・シェパードの
声に促されて打席に入れるようにね」>>>

文章は正確ではありませんが、おおむね、こんな感じでしょう。
“Now, batting for the Yankees…Derek Jeter…shortstop…No 2”

2009年9月11日、ジーターが、大先輩、ゲーリッグの持つヤンキー・スタジアムでの
ヒット数を抜きました。
ダイジェストでは分かりませんでしたが、ジーターはシェパードの声を背中に聞きながら、
打席に向かったことでしょう。そして、彼の頭にはシェパードのことがあったはずです。

最後に生で彼の声を聞いたのは1981年10月28日でした。
ドジャースとのワールド・シリーズ第6戦です。
当時、71歳になったばかり…今の私と同年齢でした。

2008シーズン終了後、旧ヤンキー・スタジアムは取り壊されることになっていました。
最終日、9月21日のブルージェイズ戦はBS1で中継する予定がありましたから、ぜひ、
彼のアナウンスを聞きたいと願い、もし、シェパードが戻ったら、コメンタリーたちには、
「その意味が分かってるだろうね?」と、声をかけたい思いでした。
CSはしっかり理解しているでしょうが、NHKじゃ心配だったのです。
残念ながら、ボブ・シェパードがスタジアムに姿を見せることはありませんでした。

彼のような声を持ったPAアナウンサーが現れる可能性はあります。
彼と同じ教養、野球に対する愛情を持ったアナが登場することはありうるでしょう。
しかし、そのすべてを兼ね備えたアナウンサーが出てくることは想像しにくいです。
つまり、私たちが“第二のボブ・シェパード”に出会うチャンスは限りなくゼロに近いと
思わなくてはいけないでしょう。

それはそうです。ボブ・シェパードは“神の声”ですから。

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by toruiwa2010 | 2016-07-03 08:30 | 自薦・厳選300? | Comments(0)
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