ブログトップ | ログイン

岩佐徹のOFF-MIKE

toruiwa.exblog.jp

実況、ドラマなど放送全般、映画、スポーツ全般、 旅、食、友 etc

「栄光への架け橋だ」考again~ケンカを売るつもりはないが~2016/09/08

当ブログの唯一いけない点はときどき“しつこい”所だと自覚している。ハハハ。

偉そうにしている奴と並んで批判の対象になるのは放送&実況だ。


おこがましいとは思いつつ、数年前に「岩佐徹的アナウンス論」を連載した。

長い経験を踏まえ、引退後に見たもの、聞いたものの感想・批評をまとめたものだ。

リオ五輪の前に更新した“自薦・厳選”シリーズで その中の“ダメ”な実況例に触れた

ためか、その古い記事( 2012.01.28 )にコメントがついた。2004 アテネ五輪の男子体操

団体戦の実況を取り上げた記事だ。

d0164636_06332798.jpg





NHK刈屋富士雄アナはもともと“苦手”だったが、このときの実況で決定的になった。

以後、何度か批判的な記事を書いた。理由は“言葉を用意する”ことに集中している。

一番ダメなのがアテネ・体操の実況だ。世間では名実況だとされている…らしい。

そうじゃないっ!と私は言う。


今回、投稿の中に本人のインタビューと名のあるスポーツ評論家が褒めた記事のURL

添付されていたので、“休載”中に読んでみた。“筆欲”が湧いた。ハハハ。


初めにいくつか

・この記事は長くなる。誤解を招かないためにできるだけ丁寧に書こうとするからだ。

・そう思われるだろうが、“ネタミ・ソネミ”で書いているわけではない。

・「どこかのへっぽこアナが…」と思う向きもあるだろう。それはそれでいいが、念の為に

書いておくと筆者はフジテレビとWOWOWで通算34年、スポーツ実況をしてきた。

オリンピックは経験がないが、MLBをはじめとする野球、ヨーロッパ選手権やUCL

セリエAを中心にサッカー、テニスのグランド・スラムなど、世界のトップレベルの

イベントにかかわった。悪いけど、月間賞だが“ギャラクシー賞”だってもらっている。

“へっぽこアナ”じゃない。まして、キャリアも実績も刈屋アナに劣るとは思わない。


いかん、もうムキになってる。ハハハ。


問題の実況だが、このときの団体戦には体操ニッポン復活の夢がかかっていた。

最後の演技者、冨田洋之が登場したとき、日本が優勝するためには8.962点が必要だった。

彼の力を考えれば“普通”の出来で十分だったが、誰もがハラハラして見守っただろう。

さて、そこからだ。

d0164636_06363985.jpg








インタビューで本人の言葉を読み、正確を期すため、改めて実況を聞きなおしてみた。

冨田が鉄棒の下で構えに入ってから着地までの実況は文字にするとこうなっている。


1. 「小学校のころソウル・オリンピックを見て自分もオリンピックでメダルを獲りたい…

夢を持った冨田。ニッポンが誇る最高のオールラウンダー」


このあと約5秒間の黙り。この間に冨田は鉄棒にぶら下がり、演技を始める。

2は演技が始まった直後にしゃべり始めた。


2. 「冨田が冨田であることを証明すれば日本は勝ちます」

( 途中で「自信もって」と解説者 )


3まで11秒間の黙り。


3.「離れ業はコールマン」


最大の山場・“コールマン”に挑む冨田をほぼ無言で見せる。

鉄棒を飛び越え、もう一度つかもうとする直前に“とれば決まります”と聞こえる一言が

やや“オフ”で入っているが、誰の言葉かハッキリしない。

どんなにくわしくても、いくらとっさでも、ベテランのアナウンサーが専門用語に近い

“とる”という言葉を使うとは思えないが、声の質、語調からは刈屋アナの声のようだ。

横を向く場面ではないのに、ヘッドセットをつけているにしては前後の言葉にくらべて

オフになっているのが不可解だが。

いずれにしても、“鉄棒をつかめば優勝が決まる”ことを言いたかったのだ。


3から8秒半の黙り。


4. 「さあ、あとは最後の伸身の新月面。(黙り3)

  着地に向かう。(黙り7秒、間で解説者が「さあ、あとは降りだ」)

  伸身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ」(以上) 

d0164636_06365699.jpg








“小学校のころ”から着地まで65秒の実況のすべてだ。

夜明けの日本列島は28年ぶりに獲った男子体操の団体金メダルに沸いた。

翌日のスポーツ紙が褒めたことで“名実況”は確定した。聞いて感動した人も多かった

ようだから、一般の人がそう思うのは理解できる。


しかし、そこまでの流れを見ていれば、実況がなくても感動する場面だったのではないか?

私なら 優勝に必要な点数を説明し、場内の雰囲気を伝えたあと、冨田の演技開始“前に”

「いつもの演技ができれば日本の金メダルは確実です」、フィニッシュに入る直前に「さあ、

フィニッシュです」しか言わなかったと思う。WOWOWに移ってからの私のモットーは

“スポーツの感動は試合やプレーそのものの中にあるだったから。


ビッグ・イベント冒頭やここという場面で“事前に用意した言葉”を話すようになった…

つまり、予定稿がスポーツ実況に登場したのは1970年代だったと思う。しかし、世間が

注目したのは19851026日、ワールド・カップ メキシコ大会のアジア最終予選、

日本対韓国の冒頭アナウンスだった。

NHK・山本浩アナが「東京千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうにメキシコの青い空が

続いているような気がします」と言ったのだ。

d0164636_06350259.jpg







サッカー・ファンの間では今も語り継がれる(…だよね)名ゼリフだ。

そう、“セリフ”であって“実況”じゃない。

それでも、世間は喝采を送った。そのときの気持ちとマッチしたからだ。


私が考える“理想的な実況”は、そのとき、放送席にいるアナにしか分からないことを、

その場にふさわしい言葉で分かりやすく伝える…ことだ。

その意味で 視聴者の気持ちにマッチすることは大事な要素だ。しかし、“すべて”ではない。


何より怖いのは、予定稿には“麻薬性”があることだ。

現に、山本アナも刈屋アナも、その後の実況でたびたび試みているが、成功例を見ない。

*以下2本の記事を参照されたい

・“用意した言葉”山本実況を考える: http://bit.ly/pMaJ6G

・わが“刈屋富士雄論” 先輩同業者から贈る言葉: http://bit.ly/1fjWPNu


今回、当時の日刊スポーツの記事を読んで「うん?」と思った。強い違和感があった。

“コールマン”を過ぎ、インタビューはフィニッシュに向かう場面にさしかかっていた。

d0164636_06352400.jpg












刈屋 考えたのは、金メダルを取ったことを日本にどう伝えるか。

1秒でも早く報告したかったし、着地をしちゃうと誰も僕の話なんか

聞いてくれない。考えていたのは「復活への架け橋」だったけど

「復活どころじゃないぞ」と。それで「栄光の架け橋」に変わった。

過去の栄光と未来、それをつなぐのが冨田の伸身の新月面だったんです。


…もちろん“字面通り”ではなかろう。

しかし、目の前で28年ぶりの“大事件”が起きようとしている。冨田の演技は“余さず”

伝えなければいけない。一瞬たりとも目を離せない。その中で、刈屋アナはこんなことを

本当にめまぐるしく考えていたのか? ウソだろ?できやしないぜ、そんなこと。


しかも、そのあとに取材記者はこう書いている。アナの話をベースにしているはずだ。


ここで、予想外のことが起きた。

冨田のフィニッシュへの入りが、1回転多かったのだ。

急きょ「伸身の新月面」と「は栄光への架け橋だ」の間に

「が描く放物線」を入れた。


一読、「すっげえ!」と思った。超・超・超人だ。ハハハ。

まともに実況していたら、そんなことを考えるひまはない。第一、1回多く回ったのなら

それを伝えるのが実況の仕事じゃないか。

つまり、"あとづけ"としか思えないのだ。

聞いて、感動した人が多かったのは認めよう。放送の実際を知らない人たちが名実況だと

褒めるのも分かる。しかし、本人が「その場で考えた」と言うのはおかしいと私は考える。

d0164636_06362031.jpg








投稿の中にあった“スポーツライター、音楽評論家、小説家、放送作家”(本人ブログより)

玉木正之氏のコラムも読んだが、すでに相当長くなっているので一点だけ書いておく。

“「栄光への架け橋だ!」は、五輪中継史上最高のアナウンスといえるかもしれない。”と

題した記事で以下のごとく“激賞”している。


(日本の男子体操陣が)低迷を乗り越えて四半世紀ぶりに復活しよう

とする瞬間、その瞬間が身体の動きの限界に挑戦した美しい放物線を

描くなかで訪れようとしたとき、その姿を表す言葉として、「栄光への

架け橋」という表現は、過去の歴史と現在と未来をつなぐという

意味合いのうえでも、眼前で展開される美しい形状を形容するうえでも、

これ以上にないふさわしく美しい言葉といえるものだった。


そう感じたのなら、他人がとやかく言う必要はない。しかし、ちょっと待ったあ!

彼は、その直前の段落で具体的にこのフレーズに触れる前にこう書いているんだよね。


…「栄光への架け橋」という言い方は、思わず口をついて出た言葉とは

思えない。これは想像でしかないが、おそらく金メダル獲得の可能性が

出はじめた頃から、アナウンサーは日本男子団体体操の復活にふさわしい

言葉を考えはじめたのではなかったか。

この想像が正しいかどうかはさておき、この言葉は、そう思えるくらいに

完成された形容であり、美しい表現といえよう。


フレーズそのものを褒めている。まさかとは思うが、彼はこの言葉が あのオリンピックで

NHKがオープニングに使った曲のタイトルだったことを知らなかったのではないか?

知っていればこういう書き方にはならないはずだ。あれだけひんぱんに流れていた曲を、

そのタイトルを知らなかった!?

だとすれば、笑うしかない。


そして、昨日、この記事の裏付けのためにネットを検索しているときに

きわめて興味深い記事に出会った。刈屋アナの過去のいくつかの発言を

つき合わせると「あれ?」と思うところがある。また別の機会に書く。


刈屋アナのインタビュー記事(日刊スポーツ): http://goo.gl/dlS56K

玉木正之氏のブログ記事: http://goo.gl/imcpPq


人気ブログランキングへ


⇑ 面白かったらクリックしてください。


by toruiwa2010 | 2016-09-08 08:00 | アナウンサー・実況 | Comments(8)
Commented by m.matsuda at 2016-09-08 11:57 x
私たちは画面を通してしか情報を得ることはできない。
その場の空気感とか疑問とか知りたいと思った事とか・・・そんな時には岩佐さんのアナウンス(?)が時折私にマッチしてました。
心地よく実況をきいていたものです、岩佐さんに感心しながら。
「栄光の・・・」の下りを聞いたときは何か「こそばい」感覚で、感動した覚えはないですね。もちろん演技には感動をおぼえましたが。
しかしながら、それを感動したと言うのなら、それはそれで「思ってけば」って感じでいいんじゃないでしょうか、岩佐さん。
Commented by toruiwa2010 at 2016-09-08 12:06
m.matsudaさん、こんにちは。

おっしゃる通りです。
私は元職ですから、実際はこうなんですよと
言いたいだけです。この手の実況が横行するのは
よくないと思うからです。
Commented by sakuragawa47 at 2016-09-08 14:51
小学校の頃、東京オリンピックを見て自分もオリンピックでメダルを
獲りたい・・・夢を持った富田。刈屋アナは”東京オリンピック”って
言ったんですか?
Commented by toruiwa2010 at 2016-09-08 14:59
sakuragawa47さん、こんにちは。

大変失礼しました。
たしかにおかしいので聞きなおしたところ
「ソウル・オリンピック」でした。
修正しました。

ご指摘、ありがとうございました。
Commented by キムキムヒンギス at 2016-09-08 17:09 x
岩佐さん、こんにちは。

私は「栄光の・・・」の実況が好きではなくて、
今回のオリンピックを観ながら、
どうか実況をされる方は、何か、印象的なことを言おうとしないでね・・と祈りながら観ていました。
競技を観てシンプルに感動したかったので・・・。

でも今回のオリンピックでも感じましたが、感動する部分は人によって様々なんですね・・。
Commented by toruiwa2010 at 2016-09-08 17:49
キムキムヒンギスさん、こんばんは。

今回もいろいろ、用意した言葉が
会ったようですね。見えない耳栓で
意識的に防いでやりました。

「琴線」のありかは人によって
それぞれでしょうね。
Commented by hhh2lucy at 2016-09-08 20:55 x
岩佐さん、こんばんは。

「栄光への架け橋だぁ〜」を聞いた瞬間、「あ、うまいこと言ったつもり、だな」と思いましたっけ。冨田選手が素晴らしかったのでスルーしましたが、内心いい加減にすれば、と思いました。

誰か、このような「予定された」言葉の垂れ流しに警鐘を鳴らし続けなければ、スポーツ実況放送はどんどん変な方向に行ってしまいます。岩佐さんが書き続けてくださるのは貴重です。有難うございます。

岩佐さんの実況ベスト、というわけではありませんが、2005年全豪オープンでサフィンがフェデラーに勝って決勝に進んだとき「サフィン勝ちました!」とおっしゃった、あれで全て語られましたね。あの頃、誰もフェデラーを止められなかった、それを止めた。アナウンサーの方々は何より声を持っていらっしゃるのですから、事実だけ語っても、そこに多くを込めることは可能なのだと思います。今でもぐっと来ます。

Commented by toruiwa2010 at 2016-09-08 21:03
hhh2lucyさん、こんばんは。

うまいこと言ったつもり…それを
聞く者に悟られちゃダメなんだと思います。
用意すると必ず悟られるんです。
だからやりなさんな…と言うんですが。ハハハ。

ひところは、決勝でも「〇〇、優勝!」としか
言いませんでした。必要ないと思っていました。

サフィンxフェデラー…記憶がはっきりしませんが、
決勝でなければ余計にその一言で十分だと思ったのでしょう。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。