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岩佐徹のOFF-MIKE

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期待を裏切らなかった「劇場」~又吉直樹の新作~17/03/16

芥川賞作家・又吉直樹の新作 「劇場」を読んだ。

妻が東京で購入し、読み終えたら芦屋に送ってもらう手はずに

なっていたが、買い物に出たとき、本屋の店頭で新潮4月号が

目に入ったら、 思わず手が伸びてしまった。

2日に分けてトータル4時間半ほどで読み切った。

おだやかな恋物語で私のストライクゾーンの真ん中に収まった。

比喩的な文章もないわけではないが、平易な文章で読みやすい。

そして、“普通”の感覚を持った人には十分に面白いはずだ。

本格的な春はまだ先だ。落ち込んだり、癒されたいと思っている

人たちにはうってつけかもしれない。


以下、今日の記事には又吉が好きな私ゆえのバイアスがかかった

ほめ過ぎの部分があるかもしれないことを初めに断っておく。

言われる前に。ハハハ。


この物語は小さな劇団の俳優兼脚本家の僕(永田)と 夏のある日、

渋谷駅近くの画廊のウインドウをのぞいているときに出会った

女性・紗希とのラブストーリーだ。


瞼は薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて

見えたことはまだない。もう少しで見えそうだと

思ったりもするけど、目を閉じた状態で見えて

いるのは、瞼の裏側の皮膚にすぎない。

あきらめて、まぶたをあげると、当たり前のこと

だけれど風景が見える。


正直に書くと、冒頭のこの数行を読んだときは「うん?」と

思った。単に私の好みの“出だし”じゃないからだが、もっと

分かりやすい文章で始めてほしかったのだ。

もちろん、又吉には計算があり、彼の感性ではこの書き出しが

正解なのだろう。素人が口を出すところじゃないなと思い直して

読み続け、すぐに又吉の世界にどっぷりとはまった。


原稿用紙300枚だと聞いたが、雑誌「新潮」では101ページだ。

どんどん読み進み、“長い”とは思わなかった。好みがあるし、

文学としての専門家の評価は分からないが、面白かった。


日本人の作家が書いたものを読むのは村上春樹の「1Q84」以来だ。

二人以外の文学者がどんな文章を書くのかは分からない。

しかし、又吉の “ものを見る感覚”が好きだ。たとえば…

風呂から上がると紗希が麦茶とともに、

梨をむいて持ってくる。母がむくものより

小さく切ってある。僕はリンゴより梨の方が

好きだが、なぜか家族にはリンゴが大好物だと

思われていて、食後に梨が出た時も、僕には

リンゴが出され梨を口にすることができなかった。

家族の期待に応えるために梨には興味がない

ふりさえもした。


…なんか好きなんだなあ。ハハハ。


2作を見る限り、この人の強みは会話に現実感があることだ。


「なあ」

「ん」

「寝た?」

「起きてるよ」

「手をつないでと言うたら明日も覚えてる?」

「うん?どういうこと?」

「明日、忘れてくれてんねやったら手つなぎたいと思って」

「手をつなぐことを恥ずかしいと思ってる人、永くんだけだよ」

紗希の手はとても温かかった。

彼女が目を開ける。

「永くん、なんで不思議そうにしてんの?

自分がつなぎたいって言ったんでしょ?」

「まだ迷っててんけど」

僕がそう言うと紗希は笑いながら、「本当によく生きて

来れたよね」と言った。


特別な言葉は何もないが、読む者にはこの二人が深いところで

気持ちを通い合わせていることが伝わる。

後半に、元劇団員の女性と”僕”が交わすメールのやり取りなども

リアリティがあって迫力を感じる。


文学を語る資格はないが、この小説は胸に響いた。

又吉がこんなに“みずみずしい”恋物語を書くとは思わなかった。

彼の小説を読むと、どうしても主人公に彼のイメージがかぶるが、

これまでの2作品に関しては少しも邪魔になっていない。

力があるということだろう。


芥川賞を獲ったあとの作品は難しいと思っていたが、これなら

十分に期待に応えていると言えるのではないか?

綾部がいなくなることだし、執筆に集中できる環境が整う。

早くも第3作が待たれるね。


by toruiwa2010 | 2017-03-16 08:41 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
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