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岩佐徹のOFF-MIKE

toruiwa.exblog.jp

実況、ドラマなど放送全般、映画、スポーツ全般、 旅、食、友 etc

カテゴリ:読書・歌・趣味( 35 )

芥川賞作家・又吉直樹の新作 「劇場」を読んだ。

妻が東京で購入し、読み終えたら芦屋に送ってもらう手はずに

なっていたが、買い物に出たとき、本屋の店頭で新潮4月号が

目に入ったら、 思わず手が伸びてしまった。

2日に分けてトータル4時間半ほどで読み切った。

おだやかな恋物語で私のストライクゾーンの真ん中に収まった。

比喩的な文章もないわけではないが、平易な文章で読みやすい。

そして、“普通”の感覚を持った人には十分に面白いはずだ。

本格的な春はまだ先だ。落ち込んだり、癒されたいと思っている

人たちにはうってつけかもしれない。


以下、今日の記事には又吉が好きな私ゆえのバイアスがかかった

ほめ過ぎの部分があるかもしれないことを初めに断っておく。

言われる前に。ハハハ。


この物語は小さな劇団の俳優兼脚本家の僕(永田)と 夏のある日、

渋谷駅近くの画廊のウインドウをのぞいているときに出会った

女性・紗希とのラブストーリーだ。


瞼は薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて

見えたことはまだない。もう少しで見えそうだと

思ったりもするけど、目を閉じた状態で見えて

いるのは、瞼の裏側の皮膚にすぎない。

あきらめて、まぶたをあげると、当たり前のこと

だけれど風景が見える。


正直に書くと、冒頭のこの数行を読んだときは「うん?」と

思った。単に私の好みの“出だし”じゃないからだが、もっと

分かりやすい文章で始めてほしかったのだ。

もちろん、又吉には計算があり、彼の感性ではこの書き出しが

正解なのだろう。素人が口を出すところじゃないなと思い直して

読み続け、すぐに又吉の世界にどっぷりとはまった。


原稿用紙300枚だと聞いたが、雑誌「新潮」では101ページだ。

どんどん読み進み、“長い”とは思わなかった。好みがあるし、

文学としての専門家の評価は分からないが、面白かった。


日本人の作家が書いたものを読むのは村上春樹の「1Q84」以来だ。

二人以外の文学者がどんな文章を書くのかは分からない。

しかし、又吉の “ものを見る感覚”が好きだ。たとえば…

風呂から上がると紗希が麦茶とともに、

梨をむいて持ってくる。母がむくものより

小さく切ってある。僕はリンゴより梨の方が

好きだが、なぜか家族にはリンゴが大好物だと

思われていて、食後に梨が出た時も、僕には

リンゴが出され梨を口にすることができなかった。

家族の期待に応えるために梨には興味がない

ふりさえもした。


…なんか好きなんだなあ。ハハハ。


2作を見る限り、この人の強みは会話に現実感があることだ。


「なあ」

「ん」

「寝た?」

「起きてるよ」

「手をつないでと言うたら明日も覚えてる?」

「うん?どういうこと?」

「明日、忘れてくれてんねやったら手つなぎたいと思って」

「手をつなぐことを恥ずかしいと思ってる人、永くんだけだよ」

紗希の手はとても温かかった。

彼女が目を開ける。

「永くん、なんで不思議そうにしてんの?

自分がつなぎたいって言ったんでしょ?」

「まだ迷っててんけど」

僕がそう言うと紗希は笑いながら、「本当によく生きて

来れたよね」と言った。


特別な言葉は何もないが、読む者にはこの二人が深いところで

気持ちを通い合わせていることが伝わる。

後半に、元劇団員の女性と”僕”が交わすメールのやり取りなども

リアリティがあって迫力を感じる。


文学を語る資格はないが、この小説は胸に響いた。

又吉がこんなに“みずみずしい”恋物語を書くとは思わなかった。

彼の小説を読むと、どうしても主人公に彼のイメージがかぶるが、

これまでの2作品に関しては少しも邪魔になっていない。

力があるということだろう。


芥川賞を獲ったあとの作品は難しいと思っていたが、これなら

十分に期待に応えていると言えるのではないか?

綾部がいなくなることだし、執筆に集中できる環境が整う。

早くも第3作が待たれるね。


by toruiwa2010 | 2017-03-16 08:41 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
先日、映画を見に銀座に出かけた。シネスイッチ銀座のラインナップは魅力的なのだが、
ここはなぜかオンライン予約ができない。自分の好みの席で見たいと思えば、たっぷりと
余裕を持って劇場に行き、チケットを買うしかない。必然的に時間があまる。どうするか?
私たち夫婦はチケット購入後、まず 近くのプランタンに行き、好物・“アンジェリーナ”の
モンブランをいただく。映画を見る前だから飲み物は無用だが、この店では「すみません、
ワンドリンクをお願いしてるんです」と言われてしまう。ガッデム!ハハハ。
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会話の少ない夫婦はケーキを心行くまで楽しんだあとでも時間が余る。劇場方向に戻り、
教文館に入る。書店だ。2階に上がると、それぞれ自由行動で本を見て回る。
俳句関係の本やミステリー本など…ふと、思い出したことがあった。「アメトーーク」の
“本屋で…読書芸人”の回だ。
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又吉直樹、光浦靖子、若林正恭、カズレーザー…本好きな芸人たちが読書の楽しさを語る
“恒例”の企画の中で光浦が勧めていた本が気になっていたのだ。“ながら見”だったので
はっきり分からなかったが、小説の書き出し部分だけを集めた本らしかった。
タイトルも覚えておらず、どこを探せばいいのかもさっぱりだったのでベテランらしい
店員さんを捕まえて尋ねると、話の途中で「ああ、それなら…」と連れて行かれた先に、
“アメトーーク:読書芸人が勧める本”がまとめられた“コーナー”があった!
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プロの作家の作品から書き出し部分だけを集めたのだと思いこんでいたが、そうではなく、
ネットサイト“デイリーポータルZ”で一般から募ったものだった。
当ブログに 毎日の記事で書き出しに苦労していることは書いているし、「文章作法」など
いくつかの記事で“小説を書くなら”と、何作か披露した。例えば…

トンネルを抜けて間もなく右手の視界が開け、雪をかぶった富士山が姿を見せた。

抜けるように青い空にひとつだけ浮かんだ雲は動く気配がなかった。風がないようだ。

「昨日の話なんだけどさあ」。いきなり睦が会話の流れとは関係のない話をはじめた。

その朝のことは忘れない。元気に走り出した琴子の後ろ姿。「パパ行ってきます」の声。

バックミラーに映る後続の車がやけに近く感じられた。辰夫の胸をかすかな不安がよぎる。

やむ気配のない雨の中を広志は駅に向かっていた。約束の時間に遅れそうだった。

「よしましょうよ、こんな話…」。しばらく続いた沈黙のあと、芳江が言った。
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突然の雷だった。何の予告も無く、大音響が建物を揺らした。

200メートルほど先にカーブが見えてきた。ハンドルを握る正夫の手に緊張が走る。
どういうものか、左カーブが苦手なのだ。

その朝のことは、今でも鮮やかに思い出すことが出来る。何よりも、夜半まで
降っていた雨がうそのような真っ青な空が目に浮かぶ。

黒い雲が低く垂れこめていた。遠くで雷が鳴っている。線路際のアジサイがきれいだ。

初めてのデートでラーメンを食べに行ったのは失敗だったかもしれない。

エリア内でパスを受けた本田が左足を振りぬくと、ボールは勢いよくネットを揺らした。

その若い女はまるで周囲にだれもいないかのような顔で眉毛の手入れを続けていた。

「何よ、それ」。鋭い声で明美が言った。その瞬間、部屋の空気が変わるのが分かった。

「分かったわ」と美代子が言った。強い意志がこもった言い方だった。

建物の外に出ると、暗くなっていた。しかも、静かに雨が降り始めていた。

「君たち。それくらいにしたらどうかね」。
 奥の席にいた紳士が声をかけて来た。知らぬ間に声が大きくなっていたようだ。

久しぶりに長い距離を走ったが、楽勝だった。武史の顔に笑みが広がる。

場内が明るくなったとき横を見ると、妻の目が潤んでいた。そうだよなと思った。

1枚目はマルゲリータと決めていた。そのあとをクァトロフォルマッジにするか
生ハムとルッコラのピザにするか、まだ迷っていた。

…いくつかはそのまま書き続けられそうだが、多くは物語の“先”が描けそうもない。
だから小説家は目指していないわけだが。ハハハ。

さて、読むのに時間がかかりそうもなかったので購入して帰ったこの本は、思った通り
1時間少々で読み終えた。本になるほどだから面白いものが多い。
中でもタイトルにもなっている“挫折を経て、猫は丸くなった。(もんぜん)”はうまいなあ。
どんな物語を続けても違和感がなさそうだ。

ほかにも…
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カナブンが一直線に飛んできた。私のファーストキスだった。(日向)

「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。(義ん母)

通りすがりの鼻唄盗んで夕暮れの商店街をすり抜ける。(Xissa)

深夜の公園に懐中電灯のあかりがふたつ。何かを捜している。(Xissa)

その罵倒が告白だと気づいたのは翌日の放課後だった。(Suzukishika)

欠伸をすると、祭り囃子がすこし遠ざかった。(紀野珍)

父の遺品はすべて二つセットだった。心配性な父は予備を買っておく癖があった。
有楽町で私そっくりな人に出会った。(山本ゆうご)

高層階の蚊はエレベーターでやってくる。(Gyudon)

ガンジーが生涯でただ一人、殴った男の話をしよう。(高橋明治男)

特に、“通りすがりの…”が大好きだ。
読了後、私も上記の“作品”で応募したら、いくつか採用されたかもしれないと思った。
うぬぼれとそしられるだろうが。ハハハ。

本を閉じたあと、「この程度なら俺にもチャンスがあったなあ」と徹は思った。ハハハ。

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でもって、今日はフルーツケーキ。
年末か新年にかけては1キロ増を覚悟。


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by toruiwa2010 | 2016-12-15 09:15 | 読書・歌・趣味 | Comments(2)

村上春樹 受賞ならず!

受賞はアメリカの歌手 ボブ・ディラン!!

これは驚いた。

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村上春樹には関心がある。ネガティブな意味で…。言ってみれば、反ハルキストだ。

「よしっ!」と膝を叩いたり、「選考委員会の連中は分かってるよなあ」などと言ったり

しないが、落選の情報を聞くと、思わずニヤリとしてしまうことは否定しない。この時期、

“ノーベル賞需要”で毎年 ひと儲けしている本屋だってきっとそうだ。ハハハ。


今年は、テレビを見ながら目の前のPCにネットのライブ中継をつないでそのときを待った。

予告された8時ちょうどにドアが開いて女性が入って来た。

「それでは、今年のノーベル文学賞を発表します。受賞者は…」と言っているらしいが、

あいにく、流ちょうなスウェーデン語だったのでチンプンカンプンだった。なじみのない

言語の中に“ボブ・ディラン”のように聞こえる単語があったが、「そんなわけはない。

別の単語だ」と思った。候補者のリストを見たわけではないから、聞き取ろうとしたのは

“本命”とされたケニアの作家の名前と“ハルキ・ムラカミ”という音だけだったのだ。


CNNなどの速報を探し始めたので、続けて、英語、フランス語、ドイツ語でアナウンスが

あったことはあとで知った。驚いたことに、ツイートしたあと改めて聞きなおしてみると、

女性の英語などのアナウンスも、すべてスウェーデン語としてとらえていたことに気づく。

作業をしながらではあったけれど、情けない耳だね。ハハハ。

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さて、フォーク(ロック)・シンガーであるボブ・ディランへのノーベル文学賞には世界中で

いろいろな意見が出ているようだ。そうだろうね。たしかに、違和感はぬぐえない。

しかし、それを言い出せば、佐藤栄作やバラク・オバマの平和賞だって違和感はあった。

選考委員会が決めたら、それが文学賞なんだと思わなければいけないのだろう。委員会は

まだ本人に連絡できていないと言うし、ディランの“思想”から言えば“ダイナマイトの

ノーベル”の賞を辞退する可能性はある。それでも、2016年の文学賞がボブ・ディランに

贈られたという事実は永遠に残る。

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いっそのこと、映画や音楽をふくめて“文化賞”としたらどうだろうという傾聴に値する

提言をした日本人がいる。フジテレビ「ワイドナショー」のスピードワゴン・小沢一敬だ。

私は大賛成だが、これが実現すると有力な候補者がどっと増えるから村上春樹が受賞する

可能性は低くなるんじゃないか。今回の選考で「村上春樹はディランに近いから希望が

見えてきた」と笑顔で語るファンがいたが、逆なんだ。ハルキストたちは嘆くだろうね。

ハハハ。

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むしろ、それを言うなら、大きな影響を受けた井上陽水の方が遥かに近いかと。ハハハ。


「風に吹かれて(Blowin' In The Wind)」などの詞が優れた“文学”と認定されたわけだが、

日本語に訳されたものを持ち出してあれこれ蘊蓄を語るのはナンセンスじゃないかなあ。

まったくの“別物”だぜ。そして、英語で読むとその意味を完全にとらえるのはなかなか

難しいのではないかと思う。


そんなことより、ディランにノーベル賞なら、“陽水に芥川or直木賞”はありじゃないのか?

ひとつだけ書いておくが、彼が書く詞はどれも示唆に富んでいて素晴らしい。

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「とまどうペリカン」:井上陽水 作詞作曲


夜のどこかに隠された

あなたの瞳がささやく

どうか今夜のゆく先を

教えておくれとささやく

私も今さみしい時だから

教えるのはすぐ出来る


夜を二人でゆくのなら

あなたが邪魔者を消して

あとを私がついてゆく

あなたの足あとを消して

風の音に届かぬ夢をのせ

夜の中へまぎれ込む


あなたライオン たて髪ゆらし

ほえるライオン おなかをすかせ

あなたライオン 闇におびえて

私はとまどうペリカン


あなたひとりで走るなら

私が遠くはぐれたら

立ち止まらずに振り向いて

危険は前にもあるから

どこからでも見えるから

爪をやすめ眠る時も


あなたライオン たて髪ゆらし

ほえるライオン おなかをすかせ

あなたライオン 闇におびえて

私はとまどうペリカン


あなたライオン 金色の服

その日暮らし 風に追われて 

あなたライオン 私はあなたを

愛してとまどうペリカン


*村上春樹がノーベル賞を獲るのはおかしいと思っている。

別の言語に翻訳れた作品は村上のものではないからだ。

「村上春樹落選~翻訳文学のむつかしさ…~」を参照されたい。

http://bit.ly/1z5GO81


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by toruiwa2010 | 2016-10-18 08:33 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
♪レリゴー レリゴー…

このところ、「アナと雪の女王」のように、私の耳をとらえる音楽がないなあ。
さすがのEXILEもJS Brothers も大ヒットになるような曲に巡り合っていないのか?
きゃりーぱみゅぱみゅはどうしたんだ?
ドラマ「僕のヤバイ妻」の主題歌、安室奈美恵の「Mint」は彼女らしい“カッコよさ”が
あるのだが、いかんせん、ドラマ見るのをギブアップしちゃったもんね。ハハハ。
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使われる曲の中にいいものが多いコマーシャルも最近はどうも…と思っているところに
ストライクゾーンの真ん中に素晴らしい楽曲が飛び込んできた。

桑田佳祐 作詞・作曲

I don’t like you.
But I love you.

君が涙見せたとき
どうしてときめくような恋心
愛のプレリュード
そしてfor you
恋人未満の僕でいい
ah 2人の絆


…「旅は、わがままに楽しもう」をキャッチコピーとするJTBのコマーシャルが楽しい。
桑田のキャラクターもあるが、なにより、使われている新曲、「愛のプレリュード」が
醸し出す明るい曲調にやられる。
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I don’t like you.But I love you. 好きじゃないけど、愛してるよ

彼のオリジナル・フレーズではないだろうが、多くの人が経験したことのある感情だ。
矛盾してるようで理解できるよね。
歌詞を文字にすると、意味が通じるような通じないような…
“プレリュード”だから“前ぶれ”“前兆”だろう。知り合った女性との関係が“愛”に
至る前の男の脳内はわけ分んなくなってるから、簡単に意味が通じるような歌詞では
逆に“機微”が伝わらないのかもしれない。ハハハ。

ここ数日、同じフレーズが頭の中でリフレインしている。
I don’t like you.But I love you…

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You’ll Never Walk Alone 
by toruiwa2010 | 2016-05-31 08:31 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
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大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

情景が目に浮かぶ、私の大好きなリズムで始まった物語は、著者自身が投影されている
駆け出しの漫才コンビ“スパークス”の徳永(僕)と先輩・“あほんだら”の神谷が作り出す
独特で密度の濃い世界を鮮やかに描いていました。
“僕”は熱海の花火大会に“営業”で出かけた夜、出番のあと飲みに誘ってくれた神谷と
師弟関係を結びます。「俺の伝記を書くこと」が神谷の出した条件でした。
コンビニでボールペンとノートを買い込んだ“僕”の気持ちは高揚しています。
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…今年、ピース・又吉直樹の快進撃ほど眺めていて心地よかった出来事はありません。
文藝雑誌「文學界」に小説が掲載されたと聞いたのは1月初めでした。
メディアが騒ぎ、とんでもない売れ行きになりましたが、妻が早い段階で入手しました。
10数年、読書と言えば英語の本、それもミステリーものばかりだった私も、好きな芸人・
又吉の本格的純文学デビュー作は読まないわけにいかないと、妻から借りて読みました。
私にしては珍しく、あっという間に読み終えました。すばらしいと思いました。
どうすばらしいのかは残念ながらうまく表現できません。好きなタイプのストーリーに
なっているのと、著者が好きだということが“冷静な評価”の邪魔をするのです。ハハハ。

涼しい風の吹く海沿いの道を歩きながら、どこから書き始めるかを
考えていた。見物客は宿に収まり切ったのか、人影はまばらで波音が
静かに聞こえていた。耳を澄ますと花火のような耳鳴りがして、次の
電柱まで少しだけ走った。


最初の“章”の最後の部分です。気に入りました。又吉直樹、あの顔でなかなかやるわ。
ハハハ。
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断固として村上春樹を認めないほど、文学のことはよく分かっていません。
そんな私でさえ、言葉の選択や文章の完成度に「えっ?」と思う箇所が多数ありました。
適当にページを開いて拾っただけでも、“畢生のあほんだら”、“混沌の様相を呈す場”、
“赤児が獣のような大きな声で”、“頭上には泰然と三日月”など、かなりの“無理”を
感じる描写があります。そこまで背伸びしなくても…と思いました。

私を含め、称賛の声が圧倒的でしたが、この一作でどうこうということはない。まして、
新人賞はともかく、芥川賞のレベルになると候補にもならないと思い、そう書きました。

しかし、読むだけでなく、“書いた”又吉。
しかも、優れた才能の片りんを示した又吉。バンザイ!

それだけでも相当すごいことなのに、6月下旬、「火花」は2015年上半期芥川賞の候補、
6作品の 一つに入りました。“候補にもならない”などとよくも言ったものだと思います。
はずかしい!
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“又吉旋風”は勢いを保ち続け、とうとう、芥川賞作家に仲間入りをしてしまいました。
いい大人が勝手に舞い上がっているようでみっともないと思いつつ、発表が行われる
7月16日の夜は7時過ぎから落ち着きませんでした。
7時半過ぎに“決定”を知ったとき、心から喜びました。あっぱれです。
“読書大好き”で知られていたし、エッセーなどを読んで視点が面白いと思っていました。
しかし、まさか・・・というのが正直なところです。
そして、当然とは言え、お笑いを本職とする芸人の作品を公平な目で評価した選考委員も
ファインプレーだなと思いました。

「芸人を100パー(%)やり、余った時間に小説を書いて行きたい」

受賞会見でお笑いと執筆の比重を聞かれた又吉はそんな言い方をしていました。
それが彼の仕事のペースだと思います。そのペースが守れるといいですが、心配です。
もっとも、本人は100万部売れようが、200万部売れようが、決して驕らず、偉ぶらず、
ひょうひょうとした態度がまったく変わりません。
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口うるさい作家たちが認めたのですから、才能に疑問はないのでしょう。
雑誌に掲載されてから今日まで、作品の出来や彼の才能について批判らしい声をほとんど
聞きません。先日の「ぴったんこカンカン」に出ていた芥川賞作家の先輩・石原慎太郎も
「面白かった」と彼にしては珍しく褒めていました。

その上で、次は「(芸人と)違う世界を書かないとダメだ」と言っていました。石原自身が
「太陽の季節」で世に出たあと、担当の編集者からそうアドバイスされたそうです。
その通りでしょう。その分、又吉が越えなければいけないハードルは高くなります。
彼がどんな目で周囲を観察しているか…つまり“世界観”が試されるのですから。

第2作…待ち遠しいですが、難しいですね。
少しずつ準備を始めているようですが、早く完成してほしいような、欲しくないような…。
「だから、お笑いやりながらじゃ無理なんだよ」と評価を下げるか、「忙しい中で、よく
これだけのものを書いたな」と感心されるか。

人を笑わせていた芸人がいきなり、日本で最も権威がある文学賞を手にしたのですから
周囲はみんな浮足立っています。最も冷静なのが本人という…。ハハハ。
しかも、忙しさはハンパじゃなさそうです。そんな環境で文章をつむぎ出すのは至難の
業でしょう。せっかくの才能だから酷使することですり減らさないでほしいと思います。

外から見ているだけですが、綾部祐二は理想的な相方ですね。
彼のペースを乱さないように…いや、守ろうと立ちまわっているようです。コンビの
一人が売れたとき、相方の立ち位置は難しいものだと思います。綾部はえらいです。
旅番組で見せる熟女タレントのエスコートぶりなどもたいしたものです。
ええ、私、綾部も好きなんです。ハハハ。

いつごろ、どんな題材で第2作が発表されるのか?
固唾をのんで待つことにしましょう。
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by toruiwa2010 | 2015-12-30 09:21 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
生意気に聞こえたら謝りますが、ここ20年ほど、週刊誌を除くと
日本語で本を読むことは滅多にありません。最近では横山秀夫
「64(ロクヨン)」と又吉直樹の「火花」でしょうか。


もともと「趣味は読書です」などと言えるほど本を読んでいません。
古典を含め純文学は苦手です。芥川龍之介や太宰治の作品でも読んでいないものが多く、
文学が好きな高校・大学の友人と集まると作品や作家の話になるので大いに困りました。
特に社会人になってからたまに読むのは「オール読物」や「小説現代」などに載るような
中間小説ぐらいでした。やがて日本人作家が書くものにはすっかり興味を失ってしまい、
欧米のミステリーを読むようになりました。もちろん、翻訳されたものを。
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英語で読むようになったのは1980年代の終わりごろだったと思います。
きっかけは大好きな作家、シドニー・シェルダンの版権を買い取った出版社が“超訳”を
始めたことでした。“訳”のわからん“訳し方”…。ハハハ。
思い切って英語で読み始めたのです。たいした英語力でもないのに。

初めは、分からない単語にぶつかるたびに、買い込んだ電子辞書の世話になりました。
しかし、会社への行き帰りに電車の中で読むことが多く、ペーパーバックを片手で持ち、
もう一方の手で電子辞書を引くのが煩わしくなり、適当に訳して強引に読み進めるように
なって行きました。自分のボキャブラリーの中から選んで日本語に置き換えられるのは
一種の快感でした。

最近は、日本の書籍も装丁に工夫が凝らされてきれいになっていますが、色彩の感覚は
欧米の本の方が私は好きです。
重いハードカバーではなくペーパーバックでしたが、それでも日本の文庫本にくらべると
かなり重いです。引退してバッグを持たなくなってからは重さが負担になり始めました。
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存在を知りながら、使いこなせるかどうかが心配でなかなか踏み切れなかったKindleを
買ったのは去年の夏でした。キンドル・・・本を読むためのタブレットです。

重宝しています。
まず、“軽さ”が魅力です。ペーパーバックの中にも分厚くて、手首がもげるかと思うほど
重いものがあるし、普通サイズでも日本の文庫本にくらべればボリュームがあります。

かさばりません。
重さはカバーつきで350グラムぐらいですから普通サイズのペーパーバックと同じですが、
薄くて持ち運びに便利です。コートはもちろん、上着やブルゾンのポケットに入ります。

想像以上に小さくて驚きました。全体のサイズは16.5 x 11.5cm、画面は12.3 x 9.1cm、
文庫本より少し小さいぐらいですが、文字の大きさを調節すれば楽に読めます。
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“断・捨・離”の強力な味方です。
読み終えた本はなんとなく捨てがたくて本棚に置きます。自分では整理したつもりでも、
常に数十冊はあります。キンドルの容量は1000冊単位ですから、場所をとりません。

電子辞書が不要になりました。
画面の単語を指先で抑えると“意味”が表示される簡単な辞書の機能を備えています。
これまでは、面倒なので調べずに誤魔化していましたが、大いに助かります。

ジョン・グリシャム、ジェフリー・アーチャー、ケン・フォレット、マイケル・コネリー、
ネルソン・デミル、A・J・クイネル、フレデリック・フォーサイス、R・J・ウォラー…
気に入っている作家の作品はすべて読破しました。
ダン・ブラウン、ロバート・パーカー、シドニー・シェルダン、ジョン・アービング、
ウイリアム・タプリー…この年齢ですから、英語力は向上しませんが、読んだ本の数は
ペーパーバックを含め、200冊を超えているでしょう。

本が読めるタブレットがあることは広く知られているはずですが、電車の中で広げている
姿をあまり見かけないのは何故でしょうかね。

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by toruiwa2010 | 2015-12-18 08:58 | 読書・歌・趣味 | Comments(2)
野坂昭如が85歳で亡くなった。
エロ事師たち、アメリカひじき、火垂るの墓、
マリリン・モンロー・ノー・リターンまでは
破竹の勢いだったか、以後、脇道に それた
印象がある。親近感を覚える作家だった。

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1966年、五木寛之が、「さらばモスクワ愚連隊」で小説現代新人賞を、翌年には「蒼ざめた
馬を見よ」で直木賞を得た。野坂昭如も1963年に発表した「エロ事師たち」で脚光を浴び、
67年に「火垂るの墓」・「アメリカひじき」で直木賞を獲得した。
2人はほぼ同期の作家と言っていいと思う。直木賞受賞作家のリストを見ると、そのころ
立原正秋と生島治郎の名前がある。私の好きな作家たちが束になって出て来た時代だった。

小説中央公論に載った「エロ事師たち」と小説現代に載った「さらばモスクワ愚連隊」を
“リアルタイム”で読んだ。結核を患い療養所に入っていた高校生のころから中間小説が
好きだったのだ。2人のデビュー作を読んだとき、“新しい風”が吹いている…と感じた。
文体や話の進め方がそれまでの作家たちと違っていた。
「火垂るの墓」には大泣きした。小説に泣かされたのは初めてだった。内容もよかったが、
普段の野坂の言動とのギャップにやられた。
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露悪趣味的なところがある独特なムードを持った作家だった。
テレビ出演も多く、そのたびに物議をかもす発言をしていた。あえてそうしていた。
本人が思っている(に違いない)ほどカッコよくないのがおかしかった。たぶん、それも
計算されていたのだろう。挑発的に品のないことを口にするのだが、憎めなかった。

若いときにいい作家に出会えたと思っている。

…そんなことを考えていたら、今朝の朝日に五木が寄稿していた。

(前略)新人として登場した頃から、偽善、偽悪の両面を
役割分担しつつ、微妙な距離感を保って50年あまりが
過ぎている。(中略)
私生活ではお互いに意識的に離れながらも、時代に対しては
共闘者として対してきたつもりでいる。(中略)
大きな支えが失われたようで、淋しい。無頼派を演じつつも、
傷つきやすい芸術家だったと思う。
野坂昭如、ノーリターン。合掌。

“共闘者”…同じ時期に世に出た二人の間に強い連帯感があったことが分かる。
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野坂には個人的な忘れがたい苦い思い出もある。

1966年3月4日、BOACのボーイング707型機が富士山の上空で乱気流に巻き込まれて
空中分解し、二合目に墜落した。前日に羽田でも事故があり、連日の飛行機事故だった。
入社3年目の私も現場からの中継を担当した。その中でこんなリポートをした。

機首部分の周辺で数人の遺体が収容されました。
傷みが激しく、性別も分からないそうです。


…数日後に発売の週刊中公に「“いたみ”って、リンゴじゃないんだから」と書かれて
愕然とした。“損傷”という言葉は頭に浮かばなかった。いまなら“損傷”を選ぶだろうが、
当時だったら、くらべても、結局は“傷み”を採用したと思う。言われる通りだ。
名指しはされなかったものの、自分が発した言葉が活字になっているのを見せられたとき、
言葉の選択はつくづく難しいものだと落ち込んだ。

無署名だったが、書いたのは小説では食えない若い作家・野坂昭如だと聞いた。

野坂の家は、昔 住んでいた杉並区下高井戸の我が家に近かった。
そんな意味でも親しみを感じる作家だった。冥福を祈る。

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by toruiwa2010 | 2015-12-11 09:24 | 読書・歌・趣味 | Comments(2)
獲ったぞー!
お笑いコンビ・ピースの又吉直樹が芥川賞を羽田圭介とともに同時受賞した。

台風・国会・新国立競技場…
今朝のテレビはもっと大騒ぎすると思っていたが、ほかに大きなニュースが
多かったせいでせっかくの明るい話題の扱いが思ったより小さい。

いい大人が勝手に舞い上がっているみたいで少々気恥ずかしいが、昨日の夜は
7時過ぎから落ち着かなかった。芥川賞・直木賞の発表があるからだ。
ときどきスマホをチェックしながらビデオを見ていたのでNHKがニュースで
速報したことも「あのニュースで得する人損する人」を放送していた日テレが
字幕で速報したことも知らなかった。
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又吉受賞を知ったのは7時半過ぎだった。
快挙だね。あっぱれだ。

“読書大好き”で知られていたし、エッセーを読んで視点が面白いと思っていた。
しかし、まさか・・・というのが正直なところだ。

400字詰め230枚の中編「火花」で純文学にデビューしたのは今年の1月だった。
掲載誌が“文學界”だと聞いてビックリした。文芸雑誌の中でも“別格”だもの。
特に、芥川賞との関係において…。
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好きな芸人の“本格的純文学デビュー作”はあっという間に読み終えた。
いいと思った。

心地いいリズムで書かれた物語は、又吉自身が投影されていると思われる“僕”
(漫才コンビ“スパークス”の徳永)と彼の“師匠”が作り出す密度の濃い世界を
描いている。

個人的には純文学より大衆文学、芥川賞的な小説より直木賞向きの小説の方が
向いている気がするし、専門家の目で見ればこの作品にも突っ込みどころは
たくさんあるのだろうと思う。
しかし、発表と同時に各界から称賛の声が圧倒的だった。

読後の感想として「この一作でどうこうということはないでしょう。まして、
新人賞はともかく、芥川賞のレベルになると候補にもならないと…」と書き、
芥川賞の候補に入ったことで恥をかいた。

そして、とうとう芥川賞作家の仲間に入ってしまった。
口うるさい作家たちに認められたことにおめでとうを言いたい。

ハードルが高くなって、第2作が難しいね。
最近の又吉の顔からは精気がほとばしっている。知性を感じさせる。
作家としてはいいが、芸人としては痛し痒し…。ハハハ。
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by toruiwa2010 | 2015-07-17 10:03 | 読書・歌・趣味 | Comments(0)
闇に風花が舞っていた。
タクシーを降りる足が縺れた。ポリスジャンパーを着込んだ
鑑識係員が、署庁舎の玄関前で待っていた。
促されて署内に入った。当直勤務員の執務スペースを抜け、
薄暗い廊下を進み、裏の通用口から職員用駐車場に出た。
霊安室は、敷地の奥まった一角にひっそりとあった。窓のない
バラック建ての小屋。低く唸る換気扇の音が「死体保管中」を
告げている。鍵を外した鑑識係員はドアの脇に退いた。ここで
お待ちします。そんな控え目な目配せを残して。
祈ることすら忘れていた。
三上義信はドアを押し開いた。蝶番が鳴く。クレゾールが目と
鼻にくる。肘の辺りに、コートの生地を通して食い込む美那子の
指先を感じていた。
天井からまばゆい照明が降って来る。腰の高さほどの検視台に
青いビニールシートが敷かれ、その上に、すっぽりと白い布に
覆われた人形(ひとがた)の隆起が見て取れた。
大人にしては小さく、かといって幼い子供だとも思えない、
その中途半端な布のふくらみに三上はたじろいだ。
――あゆみ。
瞬時に呑み込んだ。娘の名を呼べば、娘の遺体になってしまう
気がした。
白布を捲る。

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横山秀夫の小説「64 ロクヨン」の冒頭部分です。視聴率はともかく とても質が良かった
NHKドラマの原作です。物語の行く末を暗示するような書き出しです。
放送が終わったあと、胸に空洞ができたような感覚がありました。“クールな”(ハハハ)
私にしては珍しいことです。それほど、ドラマの世界、ピエール瀧が作りだした世界が
衝撃的だったということでしょうか。
朝ドラマ「あまちゃん」終了後、“あまロス”症候群がメディアに取り上げられているのを
見たときは「そんな馬鹿な」と鼻の先で笑っていたのに、自分が似たような症状になって
少々 うろたえました。ハハハ。

横山の小説を読むのは初めてでした。
映画の「半落ち」、「クライマーズ・ハイ」、「臨場」とテレビドラマを何本か見ましたが、
原作を読もうという気持ちにはならなかったのです。しかし、「ロクヨン」を見たとき、
「これなら、原作もきっと好みに合うはずだ」と確信しました。
…その通りでした。

短めの文章を重ねたスピード感のあるスタイルが気に入って、読みかけだったジョン・
グリシャムを中断して上下2巻を一気に読みました。ストーリーは分かっているのに
小説として改めて楽しみました。
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会話の部分もいいです。
現実の会話はもう少し言葉の数が多いのではないかと思いますが、セリフを読むだけで
話している人物がどんな男(女)なのかが伝わります。ドラマで演じた俳優のイメージが
かぶることが多いですが、特にピエールは三上像を完全に再現していたことが分かります。
ほかにも、美那子(木村佳乃)、雨宮(段田安則)、幸田(萩原聖人)、美雲(山本美月)といった
登場人物のキャスティングは大成功だったと思います。

そして、本を読むと、ドラマの中のセリフが原作をかなり忠実に“なぞって”いることが
分かりました。原作のセリフがいかに完成されたものだったか…ということでしょう。
そこをいじらなかったことが上質なドラマに仕上がった大きな理由のような気がします。

小説にはセリフ以外に“説明”的な部分があってそこに感情のひだが書かれています。
そのために、登場人物たちの相関関係や心の動きがドラマより鮮明になります。
面白いなと思ったのは、三上と部下の婦人警官・美雲の関係です。
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美雲は三上を上司として尊敬し、全面的に信頼しています。
刑事(刑事部)をしていた三上が、組織内で対立関係にある警務部所属の広報官になって、
両者の間で板挟みになっていることを理解し、少しでも役に立ちたいと願っています。
三上はその気持ちを痛いほど感じていますが、マスコミを相手にして ときには汚い手も
使うような仕事を三雲にさせてはいけない…という思いがあります。

ドラマを見ているとき、親子ほど年齢が離れている二人の間に恋愛感情があるなどとは
思わないものの、独特の“空気”が流れていると感じました。年甲斐もなくキュン!
ハハハ。

ドラマは最高でした。
小説も十分楽しめます。
by toruiwa2010 | 2015-07-14 08:53 | 読書・歌・趣味 | Comments(6)
お恨み申す、“超訳”~永井淳氏 死去~ (2009.06.12 初出)

1980年代だったと思います。
大庭忠男の翻訳でシドニィ・シェルダンの「真夜中の向こう側」、「天使の怒り」などの
作品を読みました。ハヤカワ文庫だったと記憶しています。
もとの文章がそうなんでしょうが、シェルダン独特の展開の速い物語が、スピーディーで
とても読みやすい日本語になっていて、むさぼるように読んだものです。
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しかし、数年後、アカデミー出版が版権を手に入れたことで私の楽しみは奪われました。
一冊だけ読みましたが、2,3ページで呆然としてしまいました。
こまかいところまで丁寧に訳すことをせず、意訳を多用し大胆な省略で早く読めるように
訳してあったのです。それまでのすばらしい訳との差が大きくてガッカリしました。

彼の小説が面白いのは間違いないので、どうにかしたいと考えた結果、「いっそのこと、
原書を読んでみようか」となりました。どうぞ「スゴーイ」などと言わないでください。
私の英語は当時も今もたいしたことはありません。電車の中で読んでいるときに外国人が
隣に座ったりすると“焦る”し、「どうか話しかけないで」と祈るぐらいです。ハハハ。
ただ、70年代の終わりに大リーグを担当したとき以来、英語の資料はイヤというほど
読み続けていたので、何とかなるのではないかと思ったわけです。

読んでみると、“案ずるより産むが易し”…シェルダンがあまり難しい言葉を多く使わない
作家だったこともあって、結構ついていけました。話の流れをつかむためにどうしても、
という場合を除いて、辞書も引きませんでした。
主に、会社の行き帰りに読んでいましたから、辞書を持つのが面倒だったのです。
ですから、7割理解するのがやっとでしたが、頭の中で自分のボキャブラリーから選んだ
日本語に置き換えられるのは一種の快感で、やめられなくなりました。

「格好つけて」と思う方もおいででしょうが、ひとつには、“英語を読む”ことに慣れて
おきたいという思いもあったのです。テニスもサッカーも、海外の資料を読むときには
どうしたって英語になるわけですから。
毎年、全豪と全米のときに、行きつけの本屋で好きな作家の新刊本を手に入れることが
楽しみのひとつでした。全豪なら、メルボルンの繁華街にある「マイヤー」と「デビッド・
ジョーンズ」、全米のときは、定宿だったニューヨークのインター・コンティネンタルから
歩いて5分ほどの「バーンズ&ノーブル」が“行きつけ”の本屋でした。
今でも、どのコーナーに行けば誰の本があるか、思い出すことが出来ます。なんの役にも
立ちませんが。ハハハ。
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“超訳”のおかげで、英語で小説を読む“クセ”がついたのですから、感謝していますが、
すばらしい“訳”を失ってしまった無念さについては、今でもうらんでいます。ハハハ。

先週、新聞の片隅に永井淳さんが亡くなったことが報じられていました。
ジェフリー・アーチャーやアーサー・ヘイリーの作品でお世話になった翻訳者です。
この人の日本語も“流麗”と言いたいほど、見事でした。今でもアーチャーが好きなのは
彼の翻訳がよかったからだと思います。
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海外の作家の作品を初めて読むときは翻訳者の“フィルター”を通すことになります。
つまり、翻訳者は読者をその作家の世界に導いてくれる“ガイド”です。彼らが果たす
役割はきわめて大きいでしょう。

今、アカデミー出版がどんな本を出しているか知りませんが、あの当時と同じ状態なら
問題です。最初に“超訳”で読んでしまった人はその作家のよさを知らないまま終わって
しまう可能性もあるからです。

シェルダンの初期の作品(大庭忠男訳)のいくつかが
アマゾンにあるようです。
“シドニィ・シェルダン 大庭忠男”で検索して下さい。
“超訳”にあきれている方には、お勧めです。ハハハ。

おまけ:昨夜の献立

昨日のメインはガーリックライスと薄切り肉の炒め物・・・
はい、大好物です。

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by toruiwa2010 | 2015-06-13 08:55 | 読書・歌・趣味 | Comments(2)