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岩佐徹のOFF-MIKE

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2285「“謝っておこう”という考え方~これもまた“保険”?~」09/08/04 

フジテレビに入社したのは昭和38年(1963年)でした。

研修を終えて実践に入っても、“若造”にはやれることも少なく、自分の席で新聞を読んだり、

先輩の仕事を見学したりして過ごしていました。

「おっと、“チョイマチ”だぞ」と先輩が声を上げるのとデスク(主任)の前に置かれた

“ガラ電”がけたたましく鳴り出すのがほぼ同時でした。


ガラ電とは、手回し式の黒電話のことで、アナウンスルームと主調整室を結んでいます。

ダイヤルは不要で、ハンドルを回せば相手の電話が鳴るようになっている緊急用回線です。

チョイマチとは「ちょっと待って」の略です。

ストップ・ウォッチを手に大急ぎで部屋を出ていく先輩を見送った目でテレビを見ると、

画面には“しばらく、そのままでお待ちください”の文字が出ています。

何かしら不具合が生じて、映像か音声が中断していることを告げているのです。


ほかに誰もいないときには、新人でも飛んでいって“お詫びアナウンス”をしなければ

いけませんから、入社から半年ぐらいは、このガラ電が鳴るのが“恐怖”でした。ハハハ。


今はどうなっているか、分かりませんが、私が現役だったころ、グランド・スラムの

どの会場でも、放送席のすみには大きなカードケースに入った“詫びアナ”用の原稿が

置かれていました。放送中に起こる不具合(事故)に応じて何十種類も用意されています。

フジテレビや日本テレビなど、普通の地上局でも、視聴者からはありとあらゆる種類の

電話がかかってきます。「いま、アナウンサーがこう言ったが、おかしいではないか」、

「キャスターの発言が気に入らない」、「字幕の文字が間違っていた」というクレームに

始まって、「さっきのドラマで女優が着ていたTシャツはどこで買えるか」、「あのドラマの

何話で登場したカフェは東京のどこにあるのか」…

「お前が調べろよ」と言ってやりたくなるものまで。ハハハ。


有料放送のWOWOWにかかる「金を払っているから、言いたいことを言わせてもらうぜ」

という加入者からのクレームの数は地上波との比ではないでしょう。

ですから、少しでも映像が乱れたり、音声が途切れたりすると、お詫びのテロップを出し、

アナウンスでもお詫びをするのです。「とにかく(とりあえず)、謝っておこう」。ハハハ。

実際はどうなのか分かりませんが、謝罪の言葉の有無で、たぶん、クレーマーの気持ちに

差が出るのでしょう。放送局にとっては、一種の“保険”といっていいでしょう。


現役時代はもちろん、一視聴者の立場になった今でも、私は、ほんのちょっとしたことで

いちいちテロップは出さなくていい、まして、テロップを出したら、アナウンスは無用だと

思いますが、視聴率や加入者数をアップさせることを目指しているテレビ局の編成や営業は

どうしても神経質にならざるを得ません。


先日、「WOWOWは謝るのに、スカパーは謝らない」旨の書き込みがありました。

事故が多いので、そのつど謝っているとキリがないから謝らないのか、苦情が来た段階で

カスタマー・センターの担当者が謝ればいいと開き直っているのか、いちいち謝るほうが

おかしいと考えているのか。正解は分かりませんが、もし、書き込みどおりだとすると、

ずいぶん大胆な戦略です。ハハハ。

私流の考え方ですが、放送にはいくつかの種類の「保険」があります。

「左サイドから○○がするするっと上がっていきます」など、画面に映っていないプレーや

ベンチの動きを描写しておくこともそのひとつでしょうし、「いま、少し、痛みをこらえる

ような表情を見せました」、「右足を気にしています」とわずかなことでも“情報”として

伝えておくことも一種の“保険”です。


もうひとつが今回のテーマでもある“お詫び”です。


19741211日…35年たった今も忘れられない出来事がありました。


その1ヶ月ほど前、家族連れを乗せた車が大分県の別府湾に“転落”し、運転していた男は

自力で脱出したものの、妻子3人が死亡しました。

亡くなった妻子には高額の保険がかけられていたことが判明し、助かった男に疑いの目が

向けられました。

この日は、潔白を主張するその男、荒木虎美を「3時のあなた」のスタジオに招いていました。


1時間の番組のすべてを、彼の言い分を聞き、疑問に答えてもらうことにあてる予定でした。

司会は寺島(富司)純子さんで私がアシスタント、スタジオには推理作家の戸川昌子さんと

大谷羊太郎さんがいて、疑問をただすことになっていました。


荒木が言いたいことを言えたのははじめの10分ぐらいで、あとは主に戸川さんが繰り出す

鋭い質問に答えなければいけない立場に変わりました。初めはとぼけたり、シラを切ったり

していましたが、やがて苛立ちを見せ始め、とうとう「私の言い分を聞くと言うから出て

きたんじゃないか。こんな質問に答えていられるか」と、席を立ってしまいました。

スタジオの出口付近で追いついた寺島さんと私で何とか席に戻るように説得しましたが

聞こうとしません。彼の主張は、「約束が違う」でした。

押し問答が続くうちにスタッフが近づいてきて「Mさんが、謝っておけと言ってます」と

耳元でささやきました。番組全体を仕切るプロデユーサーです。


よくあることですが、あとで、番組で犯人扱いされたとクレームをつけられないように、

それこそ“保険”の意味で謝罪しておけということなんです。

「やれやれ、ずるいんだから」と思いましたが、出演者で誰がその役をするかと言えば

私しかいません。

しぶしぶ「大変、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と頭を下げました。


荒木はこの日の夕方、フジテレビの建物の外で、待ち構えていた警察に逮捕されました。

裁判でも、持ち前の粘りを発揮しましたが、その途中、刑務所内で病死しています。

番組内の謝罪は、ほとんどのケースが、この“保険”という考え方に基づいていると思って

間違いありません。

ついでですが、謝らされるのは例外なく“局アナ”です。その番組の看板であるタレントや

元局アナは“知らん顔”です。

…報道ステーションで古舘が謝っているのを見たような気がします。例外はあるのかも

しれません。ただし、それは、字幕の間違いのような、それこそ局アナが謝ればすむ

程度のことで、頭を下げたのも“彼の判断”だったようです。

局や番組が謝罪を決めたときは局アナにその役目を押し付けるのが普通です。


少し前の「サンデージャポン」で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会の

勧告を受けて青木アナが謝罪させられたとき、いかにも“迷惑”という顔つきで(ハハハ)、

ぶっきらぼうにコメントを読み上げたのが印象に残っています。同じ“棒読み”でも、

世界陸上のときの藤森アナとは対照的でした。ハハハ。

視聴料が生命線のNHKは事故や間違いに神経質です。だから、画面に映ったセレブの

名前などをむやみに言わないのです。…と、思います。ハハハ。


なお、私は60歳ぐらいから、口では「申し訳ありませんでした」と言っても、決して

頭を下げることはありませんでした。髪が薄くなってきたからです。ハハハ。
by toruiwa2010 | 2009-08-04 15:38 | Comments(0)
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